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タイで個人起業する日本人が押さえるべき「プラスチック不足リスク」
タイで飲食店や食品関連ビジネスを立ち上げようとする日本人にとって、原材料価格の変動は常に気になるテーマだ。だが、タイ仏暦2566年(西暦2023年)以降の中東情勢を背景に、より根源的なリスクとして「プラスチックそのものが足りなくなる」可能性が現実味を帯びてきている。
以下では、タイ国内の大手企業の動きを手掛かりに、個人事業レベルの起業家がいま何を意識し、どのように備えるべきかを整理する。
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プラスチック原料不足の兆候:大手食品メーカーの危機感
タイのインスタントラーメン「ママー」を製造するThai President Foodsの幹部は、エネルギー価格ばかりが注目されがちな中で、実は「肥料」と並んで「プラスチックペレット(樹脂ペレット)」の不足リスクが高まっていると警鐘を鳴らしている。
プラスチックペレットは、ミネラルウォーターのボトルからホットフード用の容器に至るまで、各種パッケージの原料となる。石油が主原料である以上、中東の紛争等で供給が絞られれば、プラスチックの生産にも直撃する構造だ。
ママーの場合、包装用のプラスチックフィルムは外部サプライヤーから仕入れ、自社工場で印刷して使用している。ところが、そのサプライヤーに対し、プラスチックペレットのメーカーが「ペレット不足の可能性」を既に伝えており、サプライヤー側は特定月(記事では5月)の受注を確約できない状況にあるという。
同社は当面の対策として、プラスチックフィルムを一定量「先買い」しており、その限られた在庫を主力フレーバーの商品に優先的に回す方針を取っている。つまり、品揃えの幅よりも「売れ筋の欠品防止」を優先する意思決定だ。
それでも、プラスチックペレットの逼迫が進めば、フィルム価格の上昇は避けられない。同社の試算では、総コストの1〜2%程度の押し上げ要因になり得るが、その分は当面、自社で吸収する構えを示す。
同幹部は、中東での紛争が長期化し、ホルムズ海峡の閉鎖が3〜4カ月続くような事態になれば、供給不足は「誰の目にもはっきり見える」レベルに顕在化するとみる。その上で「他地域からの供給ルートがあるなら、タイ国内用として確保することも検討すべきだ」と、国レベルでの調達多様化にも言及している。
企業が懸念しているのは、単なる原材料高騰ではなく、「そもそも欲しい量が入ってこない」事態だという点は、日本人起業家にとっても他人事ではない。
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既に始まっている価格上昇と「素材転換」の動き
タイの米輸出業界でも、プラスチック製の包装材コストはじわじわと上昇している。タイ米輸出業者協会の名誉会長によれば、50キロ入りの米袋1枚あたりの価格は、紛争前の8〜9バーツから10バーツへと上昇した。ただし現時点では「モノが足りない」というレベルには達していないとされる。
一方、外食分野では、リスクヘッジとして「脱プラスチック」に舵を切る動きも見える。マクドナルドのタイ運営会社(McThai)は、タイ仏暦2565〜2566年頃(西暦2022〜2023年)から、包装材やカトラリーを紙や木材中心に切り替え始めている。特定のドリンク用カップなど一部では依然としてプラスチックを使うが、全体としてはプラスチック依存度を下げる方向だ。
同社は、今後の価格動向や供給状況を注視しているとし、コストだけでなく調達リスクを含めた総合的な判断の中で素材構成を見直している様子がうかがえる。
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タイで個人起業する日本人への実務的インパクト
こうした大手企業の動きは、一見するとスケールの違う話に見えるかもしれない。しかし、タイで個人事業として飲食店、ベーカリー、テイクアウト専門店、オンライン食品販売などを始める日本人にとっても、教訓は極めて具体的だ。
1. 「包装材リスク」を事業計画に明確に位置づける
ママーや米袋の例が示す通り、プラスチック包装は「なくては商売が成り立たない」一方で、中東情勢など自分ではコントロールできない要因に左右される。
事業計画書のコスト項目に、単に「包材費」と一行で記載するのではなく、
– 価格が1〜2%上振れした場合の利益インパクト
– 一時的に在庫が入らない場合のオペレーション対応
を、あらかじめシミュレーションしておく必要がある。大手と違い、個人事業では「自社でコスト上昇を吸収する余力」が限られるため、想定外の原価上昇に直面すると、一気にキャッシュフローが苦しくなる。
2. サプライヤーを「一社依存」にしない
ママーのように、プラスチックフィルムのサプライヤーが「先の受注を約束できない」状況は、個人事業でも起こり得る。仕入れ先を1社に絞っていると、その会社に問題が出た瞬間に、店舗の営業そのものが止まるリスクがある。
起業準備段階から、
– メインサプライヤーに加え、予備の仕入れ先を確保しておく
– 代替可能な規格の包装材(多少デザインが変わっても使えるもの)を検討しておく
といった「複線化」を仕組みとして組み込んでおきたい。ママー幹部が指摘した「他地域からの供給ルート」という発想を、個人事業のレベルに落とし込むイメージだ。
3. 在庫戦略と「主力商品の優先順位付け」
Thai President Foodsは、限られた包装材の在庫を「一番人気のフレーバー」に優先的に回す方針をとっている。これは、個人事業にもそのまま応用できる。
– 包装材の在庫が不安定になった場合、まずは売上・利益への貢献度が高い商品から死守する
– 利幅の小さい商品や回転率の低い商品は、一時的にラインアップから外すことも選択肢に入れる
といった「商品ポートフォリオの再構成」を、事前に頭の中でシミュレーションしておくと、いざという時に判断がぶれない。
4. 素材転換の可能性を常に検討する
マクドナルド・タイが紙や木材へのシフトを進めているように、すべてをプラスチックで賄う前提を一度疑ってみることも重要だ。
– イートイン用はリユース可能な食器に切り替え、テイクアウト分だけ使い捨て容器にする
– プラスチック袋を標準とせず、紙袋を基本とし、どうしても必要な場合のみプラスチックを用意する
など、店舗の業態に応じて「プラスチック依存度」を下げる余地がないかを検討したい。完全な脱プラスチックは難しくとも、一部を他素材に振り向けるだけで、調達リスクの分散になる。
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起業準備段階でチェックしておきたいポイント
最後に、タイで個人事業を始める日本人が、タイ仏暦2566年(西暦2023年)以降の環境を踏まえて確認すべき項目をまとめておく。
1. 包装材コストの前提条件
– プラスチック製品の見積もりに「価格改定条項」が含まれているか
– どの程度の頻度で価格見直しが行われるか
2. 調達先の多様化
– メインとサブ、最低2社以上のサプライヤーと事前に接点を持っておく
– 容量・サイズを多少変更しても運用可能なパッケージ仕様を検討する
3. 在庫ポリシー
– キャッシュフローを踏まえつつ、何カ月分の包装材を持つかの基準を決める
– 有事の際に「どのメニューを優先して販売するか」をあらかじめ決めておく
4. 代替素材・運用方法の検討
– 紙・木など、プラスチック以外の素材で代替可能な領域を洗い出す
– 店内利用とテイクアウトで容器を分けるなど、使い方の工夫で使用量を抑える方法を考える
5. 情報収集の習慣化
– 仕入れ先から、プラスチックペレットや包装材の動向について定期的に情報を得る
– 大手企業の動き(価格転嫁かコスト吸収か、素材転換か)を参考に、自社の方針をアップデートする
タイでの個人起業は、為替や人件費だけでなく、こうした「見えにくい資材リスク」にも目配りが求められる段階に入っている。大手の動きから学べる教訓を、事業計画の段階で丁寧に織り込めるかどうかが、タイでのビジネスを長く続けられるかどうかの分水嶺になりつつある。
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参照記事:https://www.bangkokpost.com/business/general/3214963/plastic-shortages-loom-as-war-hits-oil-supplies
