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2026年2月26日

タイで個人起業する日本人が知るべき政治・輸出リスク

タイで個人起業を考える日本人のための「政治・輸出・産業構造」リスク読解

タイで個人起業を考える日本人にとって、現地のマクロ環境は「遠い話」のようでいて、実は事業リスクそのものです。証券会社ブアルアン・セキュリティーズ(Bualuang Securities:BLS)が示す最新の見立てから、個人事業レベルで押さえておくべきポイントを整理します。

なお、タイでは公文書などで仏暦が用いられ、西暦に543年を加えた年号になります(例:仏暦2566年=西暦2023年)。日付け表記を読む際は、この換算を頭に置いておくと誤解を避けられます。

1. 「政治不透明感」がタイ市場最大の短期リスク

選挙後にいったん回復した投資家心理

BLSは、足元のタイ株式市場にとって最も大きな即時的リスクは「国内政治の不透明感」だと指摘しています。

2月8日の総選挙後、タイ株は明確な反発局面に入り、今月だけで約540億バーツの海外資金が流入しました。これは、ブムジャイタイ党の勝利によって「政治的安定への期待」が高まったことが背景にあります。

しかしその後、投票用紙のQRコードを巡る技術的な問題を理由に、選挙のやり直しを求める申し立てが起き、状況は一転しました。

BLS社長でタイ証券会社協会会長も務めるピチェート・シティアムナイ氏は次のように述べています。

> 「政治問題がエスカレートしたり、新たな選挙に至ったりすれば、投資家心理は再び悪化し得る」

タイで個人起業を検討する日本人にとっても、これは無関係ではありません。政治の不透明感は、為替や株価だけでなく、政府系プロジェクトの支出、投資認可のスピード、消費者心理にも波及しやすいためです。

「うまく収拾できれば」視線は企業収益へ

一方で、政治問題が円滑に解決した場合、市場の視線は「企業収益」に戻るとの見方もBLSは示しています。

– 株価指数は既に一定の楽観を織り込んでおり

– これに見合うだけの企業収益が追いつけるかどうかが問われる

ピチェート氏は、収益成長が持続すれば、2026年はタイ株にとって「黄金の年」になり得ると述べています。

個人起業家にとっても、これは中期的なビジネス環境を読むうえで重要です。

短期的には政治リスクを織り込みつつ、中長期的には「企業収益が伸びる国」で小さなビジネスを築く、という視点を持てるかどうかが問われます。

SET指数の目標レンジと「政治の明確さ」

BLSは年末のSET指数(タイ証券取引所の代表的株価指数)について、

– ベースシナリオ:1,500ポイント

– 上振れシナリオ:1,570ポイント

というレンジを提示しています。

この前提条件として挙げているのが「政治の明確さ」です。

政治的な方向性がはっきりし、海外資金の継続的な流入が維持されるかどうかが、株式市場の軌道を左右するとしています。

株価水準そのものよりも、海外資金が入ってくる国かどうかは、個人起業家にとっても参考になります。外国人投資家が資金を引き揚げる国では、通貨が不安定になり、消費や投資も冷え込みやすいためです。

2. 米国関税と輸出構造の変化:事業モデルへの含意

米国関税の直接的・間接的なインパクト

BLSのエクイティ・リサーチ責任者ピリヤポン・コンワニット氏は、外部要因としての最大リスクは「米国の通商政策」だとしながらも、「直近では政治リスクほど差し迫ってはいない」と評価しています。

それでも、数字を見れば負荷は小さくありません。

– タイの対米輸出の5割超が、新たに発表された世界共通15%関税の対象

– さらに11.1%が、米通商拡大法232条に基づく追加関税対象(鉄鋼・アルミへの50%、自動車・部品への25%など)

– およそ1.7%の輸出は、特にソーラーパネルを中心に、375〜900%超という極めて高率の反ダンピング・相殺関税の対象

一方で、2025年4月にワシントンが発表した関税免除措置により、

– タイの対米輸出の35.6%は、免除対象の品目に含まれます

(スマートフォン、通信機器、コンピュータおよび部品、集積回路など)

米国向け製品を扱う事業にとって、どのカテゴリーに属するかで収益性が大きく変わり得る構造です。

個人起業レベルでも、

– 米国企業を主要顧客とするビジネスモデル

– 米国向け輸出企業と取引するサプライチェーン内でのポジション

によって、間接的に関税リスクを負う可能性があります。逆に、免税対象のスマートフォンや通信機器関連、あるいはAI向け半導体などの分野に関わるビジネスは、相対的に安定しやすいと言えます。

輸出は「AI関連」と「伝統産業」で二極化

BLSによれば、タイの輸出構造は次第に二極化しています。

急速に伸びているのが、人工知能(AI)関連の電子分野です。

– AI関連電子製品(半導体、プリント基板、データセンター関連製品など)は

– 2025年には輸出全体の19.2%を占め、

– コロナ前平均の13.5%から大きくシェアを拡大

一方で、

– 農産品

– 消費財

– 内燃機関(ICE)車とその部品

といった従来型輸出品目は、横ばいないし減少傾向にあるとされています。

AI関連製品は、米国向け関税の悪影響をある程度相殺する役割を果たす一方で、タイの輸出全体としては依然として外部リスクにさらされている、とBLSは指摘します。

個人起業家にとっての含意は明快です。

伸びているバリューチェーン(AI関連電子やデータセンター周辺)にどこまで接続できるか

停滞している分野(一部の農産品やICE車向け)への依存をどこまで抑えられるか

という観点で、自分の事業位置づけを点検する必要があります。

米国への依存と「インド・EU・東南アジア」分散

米国は2025年時点でも、タイにとって輸出全体の21%を占める最大の市場です。

この依存度の高さが、米国の通商政策をタイにとっての構造的リスクにしています。

BLSはリスク分散の方向性として、

– インド

– 欧州連合(EU)

– 東南アジア諸国

へのシフトを挙げています。特にインドは、2025年の対インド輸出が前年比34%超の伸びを示し、「際立った成長市場」とされています。

タイは既に

16本の自由貿易協定(FTA)を締結し、

23の貿易相手国をカバー

さらにEUとのFTA交渉を含めた追加協定が進めば、

– 対象国は50カ国

– 世界の貿易額の65%超をカバー

するネットワークへ拡大する可能性があります。

個人レベルの起業であっても、

– 米国向け売上への過度な依存を避ける

– インド、EU、ASEAN向けの需要を取り込むタイ企業と組む

– FTAの恩恵を受けやすいサプライチェーンのどこに位置取るかを考える

といった視点が、事業の持続性を左右し始めています。

3. 内需と政策:消費・観光・投資をどう読むか

景気刺激策の規模は限定的、狙いは「消費」

BLSの試算によれば、タイ政府によるおよそ400億バーツ規模の景気刺激策は、

– 今年のGDPを0.1〜0.2%押し上げ

– 上場企業の利益を0.4〜0.8%程度増加させる可能性がある

と見込まれています。

主な恩恵を受けるのは「消費関連セクター」とされています。

規模としては「景気全体を一変させるほどではない」が、「個人消費の下支えにはなる」という評価です。

消費関連サービスや小売、生活関連ビジネスを考える個人起業家にとっては、短期的な追い風要因と見ることができます。

政府が掲げる「政策優先順位」

ピチェート氏は、より広い意味での政策課題として、次のポイントを挙げています。

– 家計の消費負担の軽減

公共投資の執行加速

海外直接投資(FDI)の持続的な流入

観光促進

資本市場の活性化

これらは、そのまま「どこにビジネスチャンスが生まれやすいか」を示す羅針盤でもあります。

– 観光促進:訪問者向けサービスやデジタルマーケティング支援など

– 公共投資の加速:インフラ関連企業向けのBtoBサービス

– FDI流入:進出企業の現地サポート業務(バックオフィス、ローカル調査等)

– 資本市場活性化:中長期的には金融リテラシー向上や個人投資家向けサービスの需要拡大

といった波及需要は、個人起業家にも届きうる領域です。

4. タイで個人起業する日本人への実務的示唆

BLSの視点を踏まえ、タイでの個人起業を検討する日本人が押さえておくべきポイントを整理すると、次のようになります。

1)参入タイミングと「政治の明確さ」

– 直近最大のリスクは政治の不透明感

– 新たな選挙や政治対立の激化は、投資家心理と為替・株価を冷やし得る

– 一方で、問題が「円滑に収束」すれば、中期的には企業収益成長と2026年の「黄金の年」シナリオが視野に入る

起業のタイミングを決める際には、

– 政治イベントの日程

– 選挙結果をめぐる法的プロセスの行方

– 海外投資家の資金フロー(流入か流出か)

をセットでウォッチしておくことが、リスク管理の基本になります。

2)ターゲット市場と顧客構成の分散

– 米国は依然として輸出の21%を占める最大市場であり、通商政策リスクの震源地でもある

– BLSはインド・EU・東南アジアへの分散を推奨

– 実際に、インド向け輸出は前年比34%超の伸びを示している

個人事業レベルでも、

– 顧客の国籍・市場別構成

– 米国向けビジネスや米国依存度の高い産業への間接依存度

を定期的に棚卸しし、「一国依存」を避ける設計が重要になります。

3)伸びる産業チェーンにどこから関わるか

– AI関連電子は輸出比率を13.5%→19.2%へと大きく伸ばした成長領域

– 農産品や一部消費財、内燃機関車関連は横ばい〜減少傾向

自らが製造業でなくとも、

– AI関連電子やデータセンター関連企業向けの周辺サービス

– それらの企業で働く高度人材向けの生活・教育・ヘルスケアサービス

– 伸びている産業向けの専門翻訳、調査、コンサルティング

など、成長チェーンの周辺から関わる道は多岐にわたります。

どの産業チェーンの「どの位置」で価値を出すかを意識して設計することが、長期的な安定性につながります。

4)内需・観光・消費の波を拾う

– 400億バーツ規模の景気刺激策はGDP+0.1〜0.2%、企業利益+0.4〜0.8%と「小さいが無視はできない」インパクト

– 恩恵は主に消費関連セクターに集中

– 政府の政策重点には観光促進も含まれる

観光と内需は、個人起業家が最もアクセスしやすい市場です。

– 現地消費者・観光客向けのサービス

– 観光業や小売業に対するデジタル支援

– 観光とオンラインサービスを組み合わせたハイブリッド型ビジネス

など、「消費」と「観光」を軸に小さく始めて、成長産業や輸出企業との連携へ広げていく発想も現実的です。

おわりに:マクロを読めば、ミクロのリスクが見えてくる

BLSの分析は、一見すると機関投資家向けのマクロ情報に過ぎないように見えます。しかし、

– 政治の不透明感

– 米国関税と輸出構造の二極化

– インドやEUへの市場分散

– 内需・観光・投資をめぐる政策の優先順位

といった論点は、そのままタイで個人起業する日本人の事業リスクと機会を映し出しています。

「どの国で、どの産業チェーンに、どの市場を相手にビジネスを組み立てるのか」。

その答えを考えるうえで、タイ政治と輸出構造の変化を読み解くことは、もはや大企業だけの仕事ではありません。

小さなビジネスであっても、マクロを意識した設計ができるかどうか――。

これが、これからのタイで個人起業に挑む日本人に求められる、新しい「経営感覚」だと言えます。

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参照記事:https://www.bangkokpost.com/business/general/3204545/bualuang-securities-flags-politics-as-primary-market-risk

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