燃料費の高騰がタイの航空大手を直撃している。売上を伸ばしながらも、タイ・エアアジアは2024年4〜6月期に営業赤字へ転落し、バンコク・エアウェイズも営業利益が4割減った。原油や燃料にコストを依存する構造は、中小の個人ビジネスにも共通する脆さでもあり、タイで起業を考える日本人にとって他人事ではない話だ。
燃料高騰と「売上増でも赤字」の構図
タイ証券取引所(SET)上場のアジア・アビエーション(AAV)は、ローコストキャリアであるタイ・エアアジアを運営する。AAVの2024年4〜6月期の売上高(サービス・商品の販売収入)は前年同期比2%増の100億バーツだった。
なかでも航空券収入は6%増の85.7億バーツと伸びた。平均運賃を27%引き上げ、2,127バーツとしたことが寄与したという。座席供給量は513万席と13%絞ったが、単価引き上げで売上を補った形だ。
一方で、同期間の営業費用は11%増の119億バーツと大きく膨らんだ。背景にはジェット燃料価格の急騰がある。ジェット燃料は1バレルあたり183米ドルと124%も上昇し、燃料費は前年同期比34%増の50億バーツに達した。
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燃料費は総コストの50%を占める最大項目となり、タイ・エアアジアのコア営業損失は20.9億バーツに達した。最終損益でも23億バーツの純損失となる。2024年上期(1〜6月)全体でも、売上高は244億バーツと2%減り、純損失は14.8億バーツだった。
売上を増やし、単価も引き上げた。それでも燃料という「どうにもならないコスト」が急騰すれば、利益は一気に吹き飛ぶという典型例である。価格転嫁だけでは追いつかない局面の怖さがにじむ。
コスト削減とキャパシティ管理の現場
タイ・エアアジアは、燃料以外のコスト抑制にも踏み込んだ。4〜6月期には販売費・一般管理費を17%削減し、7.06億バーツとした。人件費も12%圧縮し、119億バーツに抑えたとする。
同社は中東での紛争による影響など「世界的なオイル危機」のなかで、燃料費の負担増を非燃料コストの削減で相殺しようとした格好だ。経営陣は、年後半には燃料コストが安定に向かうとの見通しを示しつつ、流動性の確保を最優先に掲げる。
供給面でも、同社は機材の投入を慎重にコントロールしている。第3四半期は提供座席を抑えた運航を続け、年末のハイシーズンとなる最終四半期に向けて座席数を増やす構えという。第2四半期時点ではフリート全体を抑制しつつ運航し、今後の繁忙期に向け52機までキャパシティを引き上げる計画だ。
それでもタイ・エアアジアは、国内線市場では37%という最大シェアを第2四半期も維持した。供給を絞り、単価を引き上げる一方で、市場ポジションは守るという難しい舵取りを続けている構図である。
SET上場のバンコク・エアウェイズも、同じ波をかぶっている。2024年4〜6月期の収入は60億バーツと5.5%増えた。ただ、燃料コストが49%も跳ね上がり、営業費用は11.7%増の55.3億バーツまで膨張した。
その結果、同社の営業利益は5.43億バーツと、前年同期比39.3%減少した。純利益も6.04億バーツから3.33億バーツへと18%落ち込んだ。飛行回数も4.3%絞り、第2四半期は1万1,004便の運航にとどめた。
起業家が学ぶべきコスト構造の「設計」
両社の決算から浮かぶのは、「売上ではなくコスト構造が事業の運命を決める」という単純だが重い事実である。燃料のように自社ではコントロールできないコスト項目が全体の半分を占めれば、相場次第で利益が激しく振れる事業体質にならざるを得ない。
タイで個人起業を志す日本人にとっても、これは他山の石になる。物流や移動、エネルギーに強く依存するビジネスを選べば、為替や原油価格に日々さらされることになる。そうしたビジネスモデルをあえて選ぶなら、最初から次のような「設計」が欠かせない。
第一に、売上が伸びても利益が出ないケースを数字で試算しておくことだ。燃料や仕入れの単価が数割上がった場合、粗利率がどこまで耐えうるか。タイ・エアアジアのように平均単価を2〜3割引き上げても、なお赤字になる水準はどこか。机上でのシミュレーションは、事業計画段階でやっておきたい。
第二に、変動費と固定費の比率を意識することだ。タイ・エアアジアが第3四半期の供給を絞り、ハイシーズンに機材を増やす計画を立てたのは、需要に合わせて変動費を動かす発想といえる。小さな事業でも、店舗面積や人員、設備投資を「いつでも増減できる」設計にしておくと、市場環境の変化に対応しやすくなる。
第三に、非燃料コストの削減余地を常に持っておくことだ。タイ・エアアジアは販売費や管理費、人件費を2桁減らした。個人事業レベルでは、固定の家賃や人件費を一気に削るのは難しい。外注か内製か、オフィスかシェアスペースかといった日々の選択が、いざというときの身軽さを左右する。
最後に重要なのが、流動性の確保である。タイ・エアアジアの経営は「オイル危機のなかで流動性を維持する」と明言する。急な燃料費高騰で利益が圧迫されても、手元資金と信用枠に余裕があれば、供給調整や価格戦略の効果が出るまで持ちこたえられる。これは規模の小さい起業家ほど、意識しておくべき投資観だろう。
燃料価格や国際情勢は、個人ではどうにもならない外生要因である。ただ、その影響をどこまで自社のPL(損益計算書)に通し、どこから先を「吸収できないリスク」と見るかの線引きは、起業家自身が決められる。タイ・エアアジアやバンコク・エアウェイズの決算は、その線引きと備え方を問い直す格好の材料になるといえる。
