決済インフラ再編、Vocalink51%売却協議とタイ起業の依存リスク

ロンドン発の決済インフラ再編の動きが、タイで事業を始める日本人にとっても無縁ではなくなりつつある。英決済大手Mastercardが、英小売決済システムを支える子会社Vocalinkの過半出資を売却する方向で協議していると報じられたからだ。規制当局が「誰が決済インフラを持ち、どう統治するか」に神経をとがらせるなか、個人起業家も「どのインフラに依存しているか」を戦略として考える必要がある。

英給与・公共料金を支えるVocalinkの売却協議

英フィナンシャル・タイムズ紙は、Mastercardが英決済子会社Vocalinkの過半数持ち分の売却を模索していると報じた。事情を知る関係者の話として、英銀行連合に持ち分を戻す形を中心に協議が進んでいるという。

Vocalinkは英国の銀行口座ベースの決済システムを設計・構築・運営する企業である。同社のウェブサイトによると、給与の90%超、家庭の公共料金の70%超、さらに国家給付金の98%を処理しているとされる。英小売決済を裏で支える「縁の下の力持ち」という位置づけだ。

Mastercardは2016年、Vocalinkを英銀行のコンソーシアムから7億100万ポンド(9億3,738万ドル)で買収した。今回報じられた協議では、51%の持ち分の取引額が約4億ポンド(5億3,488万ドル)規模になる可能性があるとされる。

買い手候補として名前が挙がるのがDeliveryCoだ。英大手銀行や決済会社が支援する事業体であると報じられている。ただ、ロイターはこの報道内容を直ちには確認できていない。Mastercard、Vocalink、DeliveryCoの3社はいずれも、通常の営業時間外のコメント要請には応じていない。

規制当局の懸念とガバナンスの重み

こうした持ち分売却の動きの背景には、イングランド銀行(Bank of England)の懸念がある。MastercardとVisaが、英国の小売決済の大半を処理している現状に対し、競争が不足していると問題意識を強めているためだ。

イングランド銀行は前年、Vocalinkに対して1,190万ポンド(1,592万ドル)の罰金を科している。十分なリスク管理とガバナンス体制を整備するという義務を果たせなかったと判断したためだ。決済インフラ企業にとって、内部統治とリスク管理が「コスト」ではなく「免許維持の前提条件」になっていることがうかがえる。

重要インフラを担う企業の所有構造も、規制当局の関心事になっている。今回の協議は、米国企業傘下にある「重要な資産」への懸念に応える動きと報じられている。英銀行が支える事業体への持ち分移管が議論されているのは、その象徴といえる。

報道されている内容はいまだ協議段階であり、取引が成立するかどうかは不透明だ。それでも、決済という生活インフラの「所有」と「競争」をどう確保するかという問題意識は、今後も各国で共有されていく可能性がある。

タイで個人起業する日本人が押さえたい視点

タイで小さく事業を始めるとしても、売上の入金や仕入れの支払いでは、何らかの決済プラットフォームへの依存が避けられない。英Vocalinkを巡る動きからは、規模の大小を問わず、次のような実務的な視点が導き出せる。

第1に、特定の決済手段への依存リスクである。英国では小売決済をMastercardとVisaが握っていることに、イングランド銀行が懸念を示している。タイでビジネスを営む場合も、カード決済、口座振替、オンライン決済など、複数の手段を組み合わせる発想が重要になる。どこか1社や1つの手段に依存しすぎると、手数料改定やシステム障害が直撃するおそれがある。

第2に、規模が小さくてもガバナンスとリスク管理を意識することだ。Vocalinkは巨大インフラ企業だが、罰金の理由は「十分なリスク管理とガバナンスを欠いた」という、ごく基本的な部分である。タイで個人事業を始める段階でも、入出金の記録、権限の分担、顧客情報の扱いといった項目を、簡単でもよいのでルール化しておくとよい。銀行や決済会社との取引を拡大する際にも、信頼度を示す材料になる。

第3に、自社が依拠するインフラの「所有者の変化」を意識する点である。Vocalinkのように、重要なプラットフォームが持ち主を変えれば、手数料体系や利用条件が見直される可能性がある。タイで使う決済サービスが将来、別の企業に売却される可能性もゼロではない。利用規約やニュースを時折確認し、条件変更の兆しを早めに察知する習慣を持ちたい。

海外の規制動向は、一定のタイムラグを伴って他国に波及することが多い。英当局が決済インフラの所有構造や競争状況に目を光らせていることは、ほかの国・地域の当局にとっても一つの参考事例になるとみられる。タイでのビジネスプランを練る際には、「どの決済インフラに乗り、どこまで依存するか」という問いを、事業内容と同じくらい真剣に検討する段階に来ている。

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AI リポーター
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