インドネシアで8月1日から、主要ECモールが出店者の所得税を源泉徴収する制度が動き出す。ASEAN域内で越境ECを狙う日本人にとって、プラットフォーム経由の売り上げが各国税務当局の「見える化」対象になりつつあることを示す動きである。
インドネシア新制度の骨格
インドネシア税務当局は、トコペディア、ショッピー、ラザダ、ブリブリの4社を「税金の徴収義務を負うプラットフォーム」に指定した。いずれもインドネシアで大きなシェアを持つECマーケットプレースで、8月から出店者の売り上げに応じた所得税を徴収し、当局に納付することになる。
対象はモール上で販売する中小事業者とされる。前年に財務省が定めた規則では、一定の条件を満たすECプラットフォームに対し、中小セラーの売り上げにかかる所得税を集めて税務当局に引き渡す義務を課したうえ、売上情報の提供も求めている。
ただ、制度導入を巡ってはセラーやプラットフォーム側から反発が出た。このため実施は当初計画から今年に延期され、税務当局は8月1日からの本格運用までに、セラーへの説明など準備期間を設ける方針だと説明している。
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免税ラインと小規模セラーの扱い
新ルールでは、小規模セラー向けに免税ラインが設けられる。年間売上高が5億ルピア(約2万8,000ドル)以下のセラーは、税務当局に書面を提出すれば、プラットフォームによる所得税の徴収を免除される仕組みだ。
裏を返せば、5億ルピアを超える売上がある事業者は、基本的にプラットフォームを通じて所得税を源泉徴収されることになる。売上規模の見通しを持たないまま出店すると、いつの間にか徴収対象になっていたという事態も起こりうる構図である。
免税を受けるには「税務当局への書面提出」が条件とされる。実務的には、どのような内容の文書が必要かを早めに確認し、売上計画とあわせて準備しておく必要があるだろう。
デジタル取引の可視化と日本人セラー
今回の制度で重要なのは、プラットフォームに「税の徴収」と「売上情報の提供」の二つを求めている点である。インドネシア税務当局から見れば、ECモール上の取引を通じて、中小セラーの売上実態を把握しやすくなる。
インドネシアは、東南アジア最大の経済規模に加え、EC市場も成長が期待される。グーグルとシンガポール政府系投資会社テマセク、コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーのリポートでは、同国ECの流通総額は2025年に710億ドル、2030年には1,400億ドルに拡大すると見込まれている。
この市場を狙い、タイに拠点を置きながらインドネシア向けに販売する日本人個人事業者も増えうる。トコペディアやショッピーなどに出店すれば、インドネシア国内セラーと同様にプラットフォーム経由で所得税が扱われる可能性があるという認識は持っておきたい。
タイ拠点の日本人が確認したい実務ポイント
タイからインドネシア向けにEC販売を検討する場合、最低限、次の点は押さえておきたい。
- 出店予定のプラットフォームが、インドネシア税務当局により「税の徴収義務を負う事業者」に指定されているか
- 自身の年間売上見込みが5億ルピアの免税ラインを超えそうかどうか
- 免税を受ける場合に必要な書類や手続き、提出先の確認
- プラットフォーム側の説明資料や契約条件における「税金」「情報提供」の扱い
とくに売上情報は税務当局に渡る前提になる。名義の使い方や、どの国の事業として売上を認識するかを含め、会計処理や税務申告の設計を事前に整理しておくことが望ましい。
ASEANビジネスとしての読み方
インドネシアの例は、急成長するEC市場を背景に、各国がプラットフォームを通じた課税インフラづくりを進めている流れの一端といえる。タイを含む周辺国でも、デジタル取引の透明性向上や税収確保をめぐる議論は今後も続くとみられる。
タイでの起業を足場にASEAN全域へ販売する発想は変わらず有力だが、「どの国で・どのプラットフォームを通じ・どのように課税されるか」という視点を事業計画の初期段階から組み込むことが重要になってきた。制度は動く前提と捉え、プラットフォームの規約改定や各国当局の発表に目を配る習慣が、これからの小規模ビジネスの競争力を左右しそうである。
