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タイEC市場の「次の局面」で、日本人個人起業家が押さえるべき視点
タイで個人起業を考える日本人にとって、ECはもはや「選択肢のひとつ」ではなく、事業設計の前提条件になりつつある。タイのEC支援企業aCommerceのグループCEO、ポール・スリウォラクル氏によれば、同国のEC市場は高水準の家計債務を抱えながらも、今後も年率15%のペースで成長が続く見通しだという。
小売全体に占めるECの比率は現在の約25%から、今後40〜50%へと拡大するとみられている。タイでは仏暦(例:仏暦2566年=西暦2023年)が日常的に用いられるが、その時間軸で見ても、ECは「成長市場の中心」として位置づけられる。
以下では、この構造変化が、タイで個人事業を立ち上げる日本人にとってどのような意味を持つのかを整理する。
オフラインは横ばい、オンラインは年15%成長:戦うべき土俵の見極め
ポール氏は、タイの伝統的な小売は全体として横ばいで、一部カテゴリーでは減少傾向にあると指摘する。その一方で、ECは二桁成長が続く見通しだ。
この「コントラスト」が示すのは、次のような戦略的前提である。
– 新規参入が狙うべきはオフラインの空白ではなく、オンラインの成長ゾーン
– 伝統的小売もEC投資を強化しており、「オンラインはまだ競合が少ない」という前提は通用しない
タイで個人起業する日本人にとっては、最初から「オンライン主導」でビジネスモデルを設計し、オフラインは補完チャネルとして位置づける発想が求められる。
「ショッパーテインメント」と動画コマース:コンテンツと販売の一体化
ポール氏は、今後ブランドや小売事業者は、投資対効果(ROI)を厳しく見る傾向を強め、以下のようなパフォーマンス重視のチャネルに重点を移すとみている。
– ライブ配信(ライブストリーミング)
– 動画コマース
– ソーシャルコマース
– アフィリエイト
– AIコマース
特に動画コマースは成長が加速しており、「昨年時点」でEC流通総額(GMV)の25%を占めたとされ、2026年ごろまで支配的なフォーマットであり続ける見通しだ。
この背景にあるのが、「ショッパーテインメント(shoppertainment)」と呼ばれる潮流である。コンテンツとコマースが融合し、信頼されるローカルクリエイターが主導する没入型の購買体験が、タイの消費者を惹きつけている。
個人起業家にとっての含意
– 単にECサイトを立ち上げるだけではなく、最初から動画・ライブ配信を前提にした商品設計・在庫運用が必要になる。
– クリエイターとの連携は、フォロワー数の多い「メガインフルエンサー」ではなく、ポール氏が指摘するニッチ・マイクロインフルエンサーに軸足が移りつつある。
– 日本人個人事業でも、特定の趣味領域、日本製品、日泰カルチャーなどニッチ分野で信頼されるローカルパートナーを見つけやすい環境にある。
AIが変える「探し方」:キーワードSEOからAI対話型の発見へ
タイのECでは、これまで主流だった「検索窓にキーワードを打ち込む」線形の購買プロセスが、AIによるプロダクトディスカバリーへと移行しつつある。
ポール氏によれば、タイの消費者はAIに対し、より複雑な買い物の質問を投げかけるようになっており、ブランド側には次のような変化が求められている。
– キーワード中心のマーケティングからの転換
– データとAIに支えられたリッチでパーソナライズされたコンテンツの提供
日本人起業家が押さえるべきポイント
– 商品説明文は、単なるスペック列挙ではなく、AIに参照されることを前提に、具体的な利用シーンや比較情報を盛り込む必要がある。
– Q&A、レビュー、動画スクリプトなど、多様な形式のコンテンツを一貫したメッセージで整備しておくことが、AI時代の「棚取り」に直結する。
– 自社サイトや公式チャネルに蓄積する顧客データは、将来のパーソナライズ施策に不可欠であり、データを自ら握る設計が重要になる。
エージェント型コマースとBNPL:決済・与信の新しい「当たり前」
ポール氏は、ECプラットフォームが「エージェント型トランザクション(agentic transactions)」を支えるようになっている点を強調する。ここでいうAIエージェントは、
– 顧客の本人確認(ID認証)を行い
– 異なるプラットフォーム間をまたいで、シームレスに購入手続きを完了させる
といった役割を担う。
Shopify上のブランド公式サイトやマーケットプレイスなど、標準的なAPIやデジタルIDと統合されたAIエージェントをいち早く取り込んだ事業者は、定期購入やリピート購入を促進しやすくなると見込まれる。
同時に、タイでは家計債務の水準が高いなかで、ECプラットフォームがデジタルレンディングやBNPL(Buy Now, Pay Later:後払い)をチェックアウトプロセスに組み込み、販売の勢いを維持しつつ、銀行サービスが十分に行き届いていない層にも対応しようとしている。
個人起業家への示唆
– 決済手段の選択は単なる「コスト比較」ではなく、AIエージェントやデジタルIDとの連携可能性を含めて検討する必要がある。
– 自前で与信機能を持つのではなく、BNPLやデジタルレンディングを内蔵した既存プラットフォームを活用することで、購買ハードルを下げやすくなる。
市場再編とD2C:巨大プラットフォームとどう付き合うか
タイのEC市場は、今後「統合(コンソリデーション)」が進み、規模の小さい国内プレーヤーの撤退が相次ぎ、少数の大手リージョナル企業に収斂していくとポール氏は見る。これらのリーダー企業は、
– 巨大なスケールメリットを背景に
– 小規模プラットフォームには再現が難しい競争優位
を築きつつある。
一方で、プラットフォーム側の手数料引き上げを受け、ブランド側はD2C(Direct-to-Consumer)モデルへのシフトを強めている。D2Cは、
– 手数料負担を軽減し、利益率を回復させ
– 顧客データを直接取得・活用できる
というメリットがある。加えて、AIエンジンやAI検索の発展により、ブランド公式サイトへのトラフィックが増える動きも出ている。
日本人個人事業の現実的な立ち位置
– 自前で新たなマーケットプレイスを立ち上げる発想は非現実的であり、既存の大規模プラットフォームを販路として活用する方が合理的だ。
– 同時に、最初から小さくても公式サイトや自社チャネルを持ち、D2Cの核を作っておくことが、中長期の事業価値を左右する。
– マーケットプレイスを「売上のすべて」ではなく、新規顧客獲得の窓口として位置づけ、獲得した顧客との関係は自社チャネル側に移していく設計が望ましい。
リテールメディアネットワーク(RMN)と広告:データを持つ者が稼ぐ
ポール氏は、今後の焦点のひとつとして、リテールメディアネットワーク(RMNs)の拡大を挙げる。
– ECマーケットプレイス
– オムニチャネル小売
– 配送・フードデリバリーなどのプラットフォーム
といった事業者は、自らが保有する一次データ(ファーストパーティデータ)を活用し、高利益率の広告ビジネスを構築しつつある。
これに対し、ブランド側は「ブランド広告」と「トレードマーケティング(販促)」の予算を統合し、デジタル上の購買地点(Point of Sale)で消費者をピンポイントに狙う方向へと舵を切っている。
小規模事業者でも使える「大企業の武器」
RMNは一見、大手ブランド向けの仕組みに見えるが、実態としては成果指標に基づく運用型広告に近い性格を持つ。日本人個人起業家にとっては、
– 「広告=ブランディング」という発想を捨て
– 購入直前の消費者にリーチする、売上直結型の投資としてRMNを位置づける
ことで、限られた予算でも合理的な打ち手を取りやすくなる。
労働コストとオペレーション設計:自動化より「人×AIの効率化」
ポール氏は、タイの労働コストは西側市場と比べて相対的に低いことから、企業は「完全自動化」よりも従業員の効率を高める方向に関心を向けていると述べる。
タイで個人事業を立ち上げる日本人にとっては、
– すべてを自動化しようとするのではなく、
– 現地スタッフのオペレーションを前提に、AIやデジタルツールで生産性を底上げする
発想が現実的だ。例えば、問い合わせ対応、商品登録、コンテンツ作成補助など、AIが「相棒」として支える領域は広い。
タイで個人起業を目指す日本人への実務的チェックリスト
以上を踏まえ、タイでEC関連ビジネスを立ち上げる際に意識したいポイントを整理すると、次のようになる。
1. 事業設計は「EC前提」
伝統的小売は横ばいの中で、年15%成長するECに軸足を置く。
2. 動画・ライブコマース対応を初期段階から組み込む
ショッパーテインメントを意識し、商品・在庫・人材をライブ配信前提で設計する。
3. AI時代のコンテンツ戦略を持つ
キーワードSEO依存から脱却し、AIに理解されやすいリッチな日本語・タイ語コンテンツを整備する。
4. D2C+マーケットプレイスの二本立て
大規模プラットフォームを活用しつつ、公式サイトでデータと顧客関係を自ら握る。
5. ニッチ市場とマイクロインフルエンサーに焦点を絞る
「誰でも知っている有名人」ではなく、信頼が厚いローカルの小規模クリエイターと組む。
6. RMNを「売上直結の広告チャネル」として試す
小さな予算からでも、購買直前の消費者に狙いを定めた広告配信を検証する。
7. 人×AIでオペレーションを設計する
比較的低い人件費を前提に、AIを活用して一人当たりの生産性を高める。
タイのEC市場は、仏暦2566年(西暦2023年)以降も高成長が続くと見込まれている。個人起業家にとって重要なのは、「どの市場が伸びるか」を当てること以上に、ポール氏が描くような構造変化——AI、ショッパーテインメント、エージェント型コマース、D2C、RMN——を自らのビジネスモデルにどう組み込むかである。
潮目が変わるこのタイミングを、単なるリスクではなく「設計し直すチャンス」として捉えられるかどうかが、タイでの個人起業の成否を分けるだろう。
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参照記事:https://www.bangkokpost.com/business/general/3168889/online-shopping-to-keep-growing-at-breakneck-pace
