タイで個人起業する日本人が読むべき「2026年・銀行融資環境」のリアル
タイでの個人起業・小規模ビジネスを検討する日本人にとって、最初の壁になりやすいのが「資金調達」、とりわけ銀行融資です。
2026年のタイ主要銀行の方針を見ると、景気減速を前提に「慎重な貸し出し」に舵を切っており、安易に借りられる環境ではないことがはっきりしてきました。
以下では、タイの大手銀行の動きと、それが日本人個人起業家・中小ビジネスにとって何を意味するのかを整理します。なお、タイでは西暦2023年がタイ仏暦2566年に相当しますが、本稿では基本的に西暦で記載します。
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この記事の目次
主要銀行は「低めの成長目標」と「選別融資」へ
タイの国内システム上重要銀行(D-SIBs)と位置付けられる大手銀行6行のうち4行が、2026年の融資残高の伸びを「横ばい〜1桁前半」に抑えた目標を示しています。
これは、タイ経済自体の成長ペースが鈍いとの見通しを前提にしたものです。
具体的には、上場情報などによれば以下のようなレンジが示されています。
– カシコン銀行(KBank):融資残高成長率 0〜2%
– SCB X:低〜1桁半ばの成長(low- to mid-single digit)
– クルンシィ(アユタヤ銀行/Krungsri):2〜4%
– TMBタナチャート銀行(ttb):0〜2%
KBankのCEOは、「不透明感が続く厳しい経済環境の中で、バランスの取れた効率的な成長を重視する」とし、2026年の融資成長目標を0〜2%に抑えています。
つまり、全体として「量より質」を優先するモードに入っていると言えます。
クルンシィのチーフ・ストラテジー・オフィサーは、記者会見で「2026年のタイGDP成長率は2%を下回る見通しで、過去10年で最低水準」とし、融資拡大にも慎重なスタンスを取ると説明しています。
一方で、クルンシィはASEAN域内の地域融資については14〜16%という高い成長目標を掲げています。現時点では、同行の国際融資は全融資残高の約5%に過ぎませんが、収益全体の約20%を稼いでいるとされ、域内ビジネスへのシフトが鮮明です。
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SME向け融資:選別強化の一方で「支援」も続く
タイで個人起業する日本人の多くは、現地ではSME(中小企業)セグメントに分類されます。このSME融資を巡る環境は、いま微妙な転換点にあります。
KBank:成長産業かつ信用力の高いSMEを優先
KBankは、SMEについて
– 「コアとなる成長産業」に属し
– 信用力の高い事業者
を優先的に支援すると表明しています。
狙いは、SMEの「潜在力を引き出し、持続可能で質の高い成長を実現すること」です。
これは裏を返せば、
– 成長産業から外れるビジネス
– 財務内容や返済能力の説明が弱い事業者
にとっては、融資ハードルが相対的に上がることを意味します。
タイで個人事業を始める日本人にとっても、「どの産業に属するか」「信用力をどう見せるか」が、これまで以上に問われる局面です。
クルンシィ:全体は慎重でも「脆弱なSME」への支援を継続
クルンシィは、2026年の融資全体は2〜4%の成長を見込む一方で、SME向けについては
– 2017〜2020年に行った大幅な返済猶予・条件変更などの反動で
– 前年はSME融資の返済が相対的に大きく
– その結果、2026年のSME融資は「やや縮小」を見込む
としています。
にもかかわらず、同行は「特にSMEを中心に、脆弱な顧客への金融支援を続ける」と明言しており、困難な局面にある中小企業に対しても一定のサポートを継続する姿勢です。
中央銀行は「SME向け融資拡大」を要請
これとは対照的に、タイ中央銀行(Bank of Thailand)の総裁は、SME向け融資が14四半期連続で縮小している現状に強い危機感を示し、商業銀行に対して次のような要請を行っています。
– 大手銀行は1行あたり約500億バーツ規模の高い純利益を計上している
– その利益水準に見合う「社会的責任」として
– 特にSME向け融資の拡大に、より積極的に取り組むべき
これは、規制当局からの半ば“圧力”にも近いメッセージであり、今後、銀行側も一定程度はSME向け融資姿勢を見直す可能性があります。
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コーポレート融資とサプライチェーン:大企業との取引が鍵に
クルンシィは、2026年の銀行全体の融資成長を支える柱として、
– コーポレート(大企業)向け融資:3〜4%の成長目標
を挙げています。
さらに、こうしたコーポレート向けの拡大が、
– サプライチェーン・ファイナンスを通じてSME融資を後押しする
としています。
ここから読み取れるポイントは一つです。
大企業のサプライチェーンに組み込まれているSMEは、銀行融資を得やすくなる可能性があるということです。
タイで個人起業する日本人にとっては、
– 大手機械メーカーの部材供給業者
– 大手小売りチェーンへの食品やサービス供給者
– 日系またはタイ系大手のアウトソース先
といったポジションを獲得できれば、銀行が評価しやすいビジネスモデルとなり、サプライチェーン・ファイナンスの対象となる余地が広がります。
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個人起業家が押さえておくべき4つの視点
以上の状況を踏まえると、タイで個人ビジネスを立ち上げる日本人が考えるべきポイントは次の4つに整理できます。
1. 「成長産業」への位置づけを意識する
KBankが示すように、主要行は「コアな成長産業」×「信用力の高いSME」を優先しています。
自らの事業が
– どの産業カテゴリーとして理解されるのか
– その産業が「成長領域」と認識される余地があるか
を、銀行担当者目線で説明できるように準備しておく必要があります。
2. 財務と信用の「見せ方」を早期から整える
銀行は2026年に向けて、融資残高の成長を抑えつつ「選んで貸す」モードです。
個人起業家であっても、
– 収支計画、キャッシュフローの見通し
– 既存借入の返済履歴
– 会計処理の透明性
といった点を、「信用力の高さ」として示せるように整えることが、これまで以上に重要になります。
3. 大企業との取引機会を戦略的に探す
クルンシィが示すように、コーポレート向けとサプライチェーン・ファイナンスは今後の成長ドライバーと位置づけられています。
個人起業・小規模ビジネスであっても、
– いずれ大企業のサプライヤーや外注先になり得るビジネス設計か
– すでに取引がある場合、それを銀行にどう伝えるか
を意識することが、融資獲得の現実的なルートとなり得ます。
4. 「厳しさ」と「支援」の両面を冷静に読む
SME向け融資は、14四半期連続で縮小しており、クルンシィ自身も2026年は「やや縮小」を見込んでいます。
一方で、
– KBankは「質の高いSME」の成長を積極的に支援
– クルンシィは「脆弱なSME」への金融支援を継続
– 中央銀行は大手銀行にSME向け融資拡大を要請
という流れも明確です。
つまり、「誰にでも貸す」環境ではないが、「しっかり準備した事業者」には扉が開かれつつある局面と言えます。
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まとめ:2026年の融資環境は「量から質」へ、日本人起業家には準備力が問われる
2026年のタイ銀行業界は、
– 全体としては融資成長をかなり抑制
– SMEセグメントには厳しさと支援の両方
– 成長領域・サプライチェーン・地域ビジネスには選択的に資金を振り向ける
という姿勢を強めています。
タイで個人起業・小規模ビジネスを始める日本人にとって、これは
– 「とりあえず銀行から借りてスタート」という安易な発想は通用しにくい
– 一方で、「事業の質と信用」をきちんと示せれば、銀行側も社会的責任の観点から背中を押しやすい
という環境です。
2023年(タイ暦2566年)以降、タイ経済の成長テンポは鈍化傾向にありますが、その中でも銀行は、成長ポテンシャルの高いSMEと、社会的に支えるべきSMEを見極めながら資金を供給しようとしています。
日本人起業家に求められるのは、単なる事業アイデアではなく、
– どの産業で
– どのサプライチェーンに入り
– どのような信用力を示すのか
を、現地銀行の視点に立って設計し直すことです。
2026年のタイでの個人起業は、「銀行に選ばれるSME」になるための準備力がものを言う局面へと、確実に移行しつつあります。
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参照記事:https://www.bangkokpost.com/business/general/3193979/thailands-major-banks-target-modest-loan-growth-in-2026
