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2026年2月8日

2026年タイで個人飲食店を始める日本人が直面する現実

タイで個人飲食店を始める日本人が直面する「2026年の現実」

タイでの個人起業、とりわけ飲食店ビジネスは、日本人にとって依然として魅力的な選択肢だ。しかし、タイの外食産業は2026年にかけて「成長と逆風」が同時進行する局面にある。

本稿では、タイのレストラン業界団体や金融機関の見立てを手掛かりに、個人事業として飲食店を立ち上げる日本人が押さえるべきポイントを整理する。

なお、タイでは仏暦が広く使われており、西暦2023年は仏暦2566年に相当する。ビジネス書類やニュースで年号を見る際には、この差を意識しておきたい。

1. 「成長しているのに厳しい」外食市場の構図

タイの大手商業銀行サイアム・コマーシャル銀行の経済インテリジェンスセンター(EIC)は、レストラン業界の成長率を以下のように見込んでいる。

– 2025年:おおよそ3.3%成長(推計)

– 「今年」:3.2%成長(予測)

– 2026年:とくに「リミテッドサービス型」レストランが2.7%成長見込み(予測)

一見すると「安定成長」の数字だが、EICはその内訳について重要な指摘をしている。

売上の伸びは、客数の増加ではなく、主に「値上げ」によってもたらされる可能性が高い、という点だ。

つまり、市場全体としての売上規模は拡大していても、

– 来店客数そのものは大きく増えていない

– 原材料費や人件費の上昇を価格転嫁することで、名目売上が増えている

という構図になりやすい。

個人で飲食店を始める日本人にとって、これは「需要が右肩上がりだから安心」という状況ではない、という意味を持つ。

2. 観光回復の不透明感と内需の慎重さ

タイ・レストラン協会会長のチャノン氏は、観光業の先行きに強い不透明感が残っていると指摘する。旅行者数の回復が読み切れず、そのことがレストラン業界全体の先行き不安につながっている。

加えて、国内消費も力強さを欠いている。

– 年明けのハイシーズン後、1月にはレストランでの消費が落ち込んだ

– 多くの消費者が、4月のソンクラーン(タイ正月)までは「節約モード」で貯蓄を優先する傾向が続く見込み

– 所得水準が変わらなくても、政治・経済の不透明感から「財布の紐が固くなる」層が増えている

観光客頼みの立地や業態に過度に依存すると、こうした波に直撃されやすい。

個人起業家にとっては、

– 観光客だけでなく、地元住民の日常消費も取り込める価格帯・メニュー構成

– 季節・イベント(年末年始、ソンクラーンなど)に左右され過ぎない平時の集客設計

が、リスク管理の核心となる。

3. 人手不足は「構造問題」:チェーン優位の裏側

タイのレストラン業界を悩ませているのが、慢性的な人手不足だ。

レストラン協会によれば、

– 多くの従業員が、大手レストランチェーンを選好する

– 理由は、キャリアパスや福利厚生が中小・個人店よりも明確で手厚いから

という構図があり、これが小規模店舗の人材確保を一段と難しくしている。

日本人が個人で飲食店を開業する場合、この「人材争奪戦」で大手チェーンと真正面から競うのは現実的ではない。前提として、

– 少人数、もしくはオーナー自身が前線に立つ前提のオペレーション

– 人に依存しすぎないシンプルなメニューと業務フロー

– 採用・定着に過度なコストをかけなくても回る店舗設計(席数・営業時間)

を構想段階から組み込んでおく必要がある。

4. フードデリバリーは「売上」と同時に「コスト」も運んでくる

タイの飲食市場では、フードデリバリープラットフォームが重要な販路となっているが、個人店にとっては諸刃の剣でもある。

レストラン協会は、

– プラットフォーム各社が広告パッケージを導入し、店舗の露出を高めるサービスを展開している

– これにより、もともと支払っている売上手数料(グロスプロフィットフィー)に加え、広告費負担が増大している

と指摘する。つまり、デリバリー経由の売上が増えても、利益は必ずしも増えない。

日本人オーナーの立場からは、

– デリバリーを「売上チャネル」だけでなく「広告・認知拡大の場」と位置づけ、採算ラインを明確に決める

– 広告パッケージに依存しすぎず、既存客のリピート店頭・SNSでの直接訴求とのバランスを取る

といった「費用対効果」の視点がいっそう重要になる。

5. コスト上昇:最低賃金とテクノロジー投資の板挟み

EICのレポートは、業界が直面するコスト要因として次の2点を挙げている。

1. 日額最低賃金の引き上げ

2. ビジネスオペレーションへのテクノロジー導入コストの増加

さらに、前述のように、業界全体の売上成長は主に価格上昇(値上げ)によって生じると指摘されている。

つまり、飲食店側は、

– 賃金や原価、テクノロジー関連費の上昇

– それを補うための価格転嫁

– しかし、消費者は支出に慎重で、簡単には客数が増えない

という「三重苦」に直面している構図だ。

個人で起業する場合、派手なテクノロジー投資よりも、

– 必要最低限のツール導入にとどめ、オペレーションを極力シンプルに保つ

– 値上げが必要な場合も、構成やポーションの工夫などで、顧客の「心理的抵抗」を抑える

といった、地道なコスト管理が生き残りの鍵となる。

6. 「リミテッドサービス型」が伸びる理由と個人店の戦い方

EICは、2026年に向けてリミテッドサービスレストラン(ファストフード、しゃぶしゃぶチェーンなど)が、約2.7%の成長を続けると見込んでいる。このセグメントが強い理由として、レポートは次の点を挙げる。

– 価格が消費者にとって手頃である

– 品質や味が標準化されており、どこで食べても安心感がある

景気が不透明な局面では、消費者は「確実にハズレを引かない、手頃な選択肢」を好む傾向が強まる。

この意味で、日本人が個人で始める店であっても、

– 過度な高級路線よりも、「手頃な価格で一定クオリティ」を提供するコンセプト

– フルサービスではなく、セルフサービスや簡易サービスを組み合わせた業態

に寄せていくことが、タイの市場環境には合致しやすい。

フランチャイズチェーンと同じスケールメリットは得られないにせよ、

– メニューを絞り込み、提供スピードと安定した味を徹底する

– 内装や演出で過度なコストをかけず、「ほどよい日常利用」にフォーカスする

といった工夫は、個人店でも十分に実行可能だ。

7. フルサービスレストランが直面する厳しさ

一方で、EICはフルサービスレストランが他業態よりも厳しい環境に置かれると見ている。

背景には、

– 消費者が依然として支出に慎重であること

– 高単価で時間もかかるフルサービス業態が、「節約モード」の消費者心理と相性が悪いこと

がある。

日本人が「本格的なコース料理」「丁寧なフルサービス」を売りにした店を構想する場合、

– 高付加価値を理解してくれる限られた顧客層に深く刺さるコンセプトを練り込む

– 一般消費の波に左右されない、安定した固定客づくりを前提とする

といった、よりニッチで戦略的なポジショニングが必要になる。

逆に言えば、フルサービスを「なんとなくの憧れ」で選ぶと、コスト構造と市場環境の両面から苦境に陥りやすい局面だ。

8. 気候変動と食材価格:メニュー構成の柔軟性が武器になる

レストラン協会のチャノン氏は、気候の変動性もリスク要因として挙げている。

天候不順や異常気象が増えれば、

– 農産物・海産物など食材の価格変動が大きくなる

– 一定期間、特定食材の供給が不安定になる

といった事態が起きやすくなる。

仕入れ価格が乱高下する環境では、

– 特定食材に依存しすぎたメニュー構成

– 原価高騰時にも価格改定しづらい「看板メニュー」への過度な依存

は、個人店の収益を圧迫しやすい。

日本人オーナーとしては、

– 仕入れ状況に応じて一部メニューを柔軟に入れ替えられる設計

– 日替わり・週替わりなどを取り入れた、変動コストに対応しやすい構成

をあらかじめ組み込んでおくことで、気候リスクを相対的に抑えやすくなる。

9. 2026年のタイで個人飲食店を始める際の「チェックリスト」

以上を踏まえると、2026年にタイで個人飲食店を立ち上げる日本人が、最低限確認しておきたいポイントは次の通りだ。

需要環境

– 観光は完全回復とは言い難く、旅行者数は不透明

– 消費者は政治・経済の不安から支出に慎重で、ソンクラーンまでは節約傾向も根強い

コスト・人材

– 最低賃金の上昇、人手不足、テクノロジー導入コストが同時進行

– 従業員は大手チェーンを選びやすく、個人店は採用・定着で不利

業態選択

– 成長が見込まれるのは、手頃な価格で標準化されたリミテッドサービス型

– フルサービスは、慎重消費の流れの中で最も逆風を受けやすい

販売チャネル

– フードデリバリーは売上増と同時に、手数料と広告費が利益を圧迫する構造

– プラットフォーム依存度をどこまで高めるか、戦略的に決める必要がある

リスク管理

– 気候変動による食材価格の変動に備え、メニューの柔軟性を高める

– 値上げに頼り切らない、コスト構造の軽量化を徹底する

タイの外食市場は、数字の上ではなお成長が続く「魅力的な市場」である一方、その成長は決して「楽に儲かる」ことを意味しない。

仏暦2566年(西暦2023年)以降続いてきた不透明感と構造的な人手不足の延長線上に、2026年の環境があると捉えるべきだろう。

日本人としてタイで個人起業を志すのであれば、華やかな表層のイメージよりも、こうした足元の現実を冷静に見据えたうえで、事業コンセプトと計画を練り上げることが求められている。

Photos provided by Pexels
参照記事:https://www.bangkokpost.com/business/general/3192005/restaurants-face-a-rough-2026

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AI リポーター
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