2026年(タイ暦2569年)を見据える:タイで個人起業する日本人のための資金戦略と事業テーマ
タイで個人事業を立ち上げる読者にとって、外部環境の読み違いは資金繰りと成長余地に直結する。クルンシー・アセット・マネジメント(KSAM)は、2026年(タイ暦2569年)に向けて「AIとヘルスケア、そしてゴールド」が投資市場を牽引すると見立てる一方、ボラティリティの高さも続くと警鐘を鳴らす。以下、その示唆を起業の意思決定に落とし込む。なお、タイの年表記については、タイ暦2566年=西暦2023年を基準に読み替えてほしい。
グローバルの追い風と逆風:事業環境の基本線
KSAMの見解では、世界市場は来年にかけて変動が大きい一方、構造的な成長機会は明確だ。米中のAI関連技術は「投機ではなくファンダメンタルズに支えられた」複数年の成長エンジンで、デジタル変革やAIアプリケーションの急進、米国の税制・産業政策によるサプライチェーン調整が追い風になる。米連邦準備制度理事会(FRB)が月額400億ドル規模の量的引き締め縮小を進める方針も、流動性面の支援材料だ。
マクロ環境では、米国は底堅く、欧州はインフレが目標に近づき安定化、日本は賃上げと政策支援で改善。中国は個人消費の弱さと不動産のストレスが重石となる。大手中銀による利下げ観測が固まり、債券市場は「より建設的」な局面に入るとの見立てだ。他方で、米国の税制改革の不確実性、地政学、欧州の政治リスク、AI普及に伴う労働市場の攪乱といったリスク要因は残る。
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起業家にとっての要点は二つ。第一に、需要のミスリードを避けるため、AI・デジタル化の波を前提に事業設計を行うこと。第二に、キャッシュ運用と調達の前提金利を定期的に見直すことだ。金利低下が進む局面では、債券が現金の代替として機能しやすくなる一方、調達コストの弾力性も変わる。
タイ固有の足元:回復基調だが選別が前提
KSAMは、タイ経済は財政出動、輸出の持ち直し、製造業の回復に支えられ改善していると評価する。上場企業の第3四半期決算も市場予想を上回った。ただし、政治的不確実性は投資家心理の重石で、選挙を材料にした相場上昇も強くは見込まないという。技術駆動型経済への移行の遅れといった構造課題も、信認の足かせとなっている。
成長率は2025年で1.8〜2%が目標、2026年は米国の税制が世界貿易に与える影響で減速が示唆される。他方、バリュエーション面では地域比で相対的に割安で、配当利回りは4%超、銀行セクターは配当7〜8%と収益が堅い。ボトムアップの選別が前提だが、割安さと配当は個人事業の余剰資金運用の選択肢になり得る。
金利面では、FRBの利下げが12〜24カ月かけて段階的に進む公算。タイではインフレが2025年にマイナス転化の可能性もあり、タイ中央銀行は2026年半ばまでに政策金利を1.00〜1.25%へ1〜2回の利下げ余地があるとの見立てだ。資金繰りの前提金利や、固定・変動の組み合わせはここからの焦点になる。
起業家の実務アクション:AI・ヘルスケア・ゴールドをどう活かすか
– AIを「攻め」と「守り」で位置づける
– 攻め:米中を中心にAI関連が構造的成長。自社の業務設計でも、見積・在庫・顧客対応・分析などにAIを組み込み生産性を底上げする。
– 守り:AI普及が労働市場に揺さぶりをかける。スキル移行と再訓練の計画を早期に用意する。
– ヘルスケアとの接点を探す
– ヘルスケアは相対的にアウトパフォームが示唆され、バリュエーション妙味も指摘されている。調達・保守サービス、データ処理、越境支援など、周辺領域でのB2B協業機会を検討する。
– ゴールドで「備え」を可視化する
– ゴールドは5〜10%の保有推奨が示される重要なヘッジ。事業口座から切り離した形で、市況変動に対する安全弁を確保する。
– 債券をキャッシュマネジメントに組み込む
– グローバル・タイ双方の債券に前向きとの見方。運転資金の余力部分は、高格付けの政府・グローバル債を用いた分散で金利低下局面の果実を取りにいく。
参考:KSAMの示す分散アロケーションの目安
– 株式48%(米中のテクノロジー・AI関連が牽引)
– 債券45%(高品質のグローバルおよび政府債に重点)
– ゴールド5〜10%
– タイ株2%
起業フェーズでも、事業資金と余剰資金を切り分け、上記のような枠組みを基準に「いつ・どこでリスクを取るか」を明確化したい。タイ株は全体としては緩やかな回復見通しだが、配当と割安さをてこに絞り込む戦略が現実的だ。
最後に:2026年(タイ暦2569年)に向けた構え
KSAMは、2026年に向けた投資テーマとして「米国AI関連」「米国の税制インセンティブの恩恵を受ける株」「バリュエーション妙味のあるヘルスケア」「中国のAI展開に乗るテック」を掲げる。タイ経済は回復基調ながら政治・構造課題を抱え、成長の角度は緩やかだ。だからこそ、事業はAIで磨き、ヘルスケアと接点を作り、資金は債券とゴールドで守り、株式はテーマを絞って攻める——このシンプルな設計が、変動の大きい局面でも持続可能な起業を支えるはずだ。
補記:KSAMは2025年末時点で運用資産7,150億バーツ、年初来10%増と、業界平均を上回る伸びを示している。ミューチュアルファンドを中心に資金を集め、調査の厚みを背景にした見立てである点も、判断材料として押さえておきたい。
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参照記事:https://www.bangkokpost.com/business/investment/3141438/investors-urged-to-target-ai-healthcare-and-gold-in-2026
