タイのエネルギー政策が外国投資に与える影響 ─ 個人起業家の視点から
タイは、個人起業家や外国企業にとって魅力的な投資先として注目される一方で、エネルギー供給体制の遅れがその魅力を損ねる可能性があります。今回は、SET上場の統合クリーンエネルギーデベロッパーであるガンコール・エンジニアリングのナラウチョン・ドゥムロンピヤウットCEOのコメントを軸に、タイの新たな国家エネルギー計画(NEP)とそれに伴う投資環境の現状について解説します。
タイの新国家エネルギー計画(NEP)とその課題
タイ政府は、低炭素社会への移行を目指し、2024年から2037年にかけて新国家エネルギー計画(NEP)を実施する予定です。NEPは、再生可能エネルギーの割合を2037年までに全電力供給の51%に引き上げるという目標を掲げていますが、その計画は昨年、内閣改編などの影響で大幅な遅延を余儀なくされました。
ナラウチョンCEOは、「再生可能エネルギーの導入割合が現状では低く、将来的に2065年までにネットゼロを達成するには不十分である」と指摘しています。また、NEPが掲げる計画の一環として進められている直接電力購入契約(PPA)のパイロットプロジェクトについても、実施の遅れが懸念材料となっています。この直接PPAは、特にデータセンターなど高電力需要を持つ事業者に対し、発電者から直接電力を購入できる仕組みとして期待されていますが、現行の制度では取引可能な容量が2000メガワットに限定されており、制度の整備が急務とされています。
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競争激化する東南アジア市場とタイの立場
タイは、フィリピンやベトナムなど、同地域の競合国と比べた際、再生可能エネルギーの導入やエネルギー市場の柔軟性において後れを取っています。たとえば、ベトナムでは太陽光と風力発電の能力がすでに23000メガワットに達しているのに対し、タイはわずか5000メガワットにとどまっています。この差は、ベトナムが太陽光・風力発電の施設整備において1年で達成するレベルと比較すると、タイが10年を要している現状を示しています。
また、東南アジア各国は2050年までにネットゼロを目指す動きが強まる中、タイは2065年までの計画となっており、国際的な気候目標とのギャップが指摘されています。ナラウチョンCEOは、「タイにおける政府の再生可能エネルギー政策は高い固定価格買取制度(グリーンタリフ)に依存しているため、外国投資家の関心を引き付けるには難しい」と述べています。これは、エネルギー分野に参入しようとする日本人起業家にとっても重要な情報と言えるでしょう。
タイで個人起業する日本人起業家への示唆
タイは、個人起業家にとっても投資やビジネスチャンスが豊富な国ですが、エネルギー供給の不透明さや計画の遅延は、特にエネルギー集約型の業種やデータセンター関連ビジネスに影響を及ぼすリスクとして捉えられます。今後、タイ政府が政策の見直しや制度改革を迅速に進め、電力市場の競争力を回復する見通しがあるかどうかが、外国投資家のみならず、タイで事業を展開する日本人起業家の成功に直結するでしょう。
エネルギー政策の動向を的確に把握し、将来的な市場環境を見据えた戦略立案が求められる中、現地の最新ニュースや政策動向に注意を払うことが、持続可能なビジネスへの第一歩となります。タイ市場におけるエネルギー分野の変革が、今後の成長機会としてどのように展開されるのか、引き続き注視する必要があります。
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参照記事:https://www.bangkokpost.com/business/general/3043036/gunkul-says-thailand-lags-power-peers