タイ証券市場に上場する電子機器メーカーの業績が、第3四半期にかけて一斉に伸びている。けん引役は生成AIブームに支えられた部品需要だが、その先にはサイクル調整への警戒もにじむ。タイで個人起業を志す日本人にとっては、「どこに波が来ていて、どこで潮目が変わりうるか」を読む材料になる局面である。
広がるAI投資の追い風
証券会社のタイ拠点は、上場電子企業のコア利益が第3四半期に前年同期比39〜873%、前期比33〜105%増えると見込む。売上高も前期比9〜24%増とされ、短期的にはかなり強い伸びという評価である。
背景にあるのが、人工知能(AI)関連の投資サイクルだ。投資の対象はこれまで中心だったグラフィックス処理ユニット(GPU)やメモリーチップから、ネットワーク機器、光学部品、電源システム、冷却装置、プリント基板(PCB)、エレクトロニクス製造サービス(EMS)へと裾野が広がっているとされる。
AI関連の強い需要が供給をタイトにし、価格を下支えしているという。アナログ半導体やPCBにも回復の動きが出ており、業績の持ち直しは一部品目にとどまらず広がりつつある。一方で、非AI向け製品の需要はなお低調とされ、明暗が分かれる構図だ。
ある証券の試算では、セクター全体のコア営業利益は第3四半期に89億バーツと、前年同期比39%増、前期比61%増と見込む。サプライチェーンの混乱が一巡し、生産が平常化したことに加え、部材コストの低下や製品ミックスの改善が利益を押し上げる要因とされる。粗利益率は第2四半期の26.8%から29%へと改善すると予測されている。
上場電子メーカーの業績シナリオ
個別企業で見ると、デルタ・エレクトロニクス(タイ)がセクターをけん引するとみられている。第3四半期の売上高は577億バーツと予想され、前年同期比42%増、前期比16%増の見通しである。AI関連製品への直接的なエクスポージャーが評価されている。
PCBを手がけるECKエレクトロニクスも、AIサイクルの恩恵を受ける銘柄として名前が挙がる。第3四半期のコア利益は4億9,500万バーツと予想され、前年同期比70%増、前期比105%増と急伸ペースだ。売上高は43億バーツに増え、PCBの数量・価格ともに上向くなかで、設備稼働率の改善が粗利益率を18.9%から22.5%へ押し上げるとされる。
サーバーやストレージの組立事業を持つカル・コンプ・エレクトロニクス(タイ)も、AI関連データセンター向け需要の波に乗る構図だ。第3四半期の売上高は前期比24%増の433億バーツ、コア利益は10億9,000万バーツと45%増える見通しが示されている。
ハナ・マイクロエレクトロニクスのコア利益は、第3四半期に3億7,100万バーツと予想される。前年同期比で873%増という極端な伸びで、アナログ半導体チップの需要増加のほか、他事業の赤字縮小、新たなAI向け冷却・光学関連製品が寄与する構図とされる。
複数のブローカーは、こうした好調が第4四半期にも続くとみている。先行受注に加え、グローバルなAI向け設備投資サイクルが2027年まで続くとされる点が、その根拠である。タイの複数の電子企業が、この長い投資サイクルの受け皿になっているという見方だ。
一方で、AI関連の「勝ち組」から、回復余地の大きい中堅銘柄へ投資マネーが移る余地も指摘される。ある証券は、セクター全体への投資判断を強気に保ちつつ、より大きな業績回復が見込める小型株に目を向けるべき局面とみる。ハナを「業績の上振れ余地とバリュエーション見直しの可能性」という観点から有望視し、足元で株価が上昇してきたデルタとECKは、どちらかといえば短期売買向きと位置付ける。
日本人起業家が読むべきサイクル
タイで電子産業向けにビジネスを始めようとする日本人にとって、重要なのは「AIブームで何が伸び、どこから減速のリスクがあるか」という点である。AI関連投資はGPUやメモリだけでなく、ネットワーク、光学部品、電源、冷却、PCB、EMSまで波及しているとされる。この裾野の広さは、部材調達や専門サービス、アウトソーシングなど、小規模事業者にも入り込める余地があることを示唆する。
具体的には、大手メーカーの設備稼働率が上がり続ける局面では、外注ニーズが高まりやすい。生産ピーク時の人材手配や現場サポート、設備保守、間接材の調達代行など、細かい「すき間仕事」に商機が生まれる可能性がある。とくにPCBやEMSのように、多品種少量や短納期への対応が求められる工程では、フットワークの軽い小規模事業者が価値を出しやすいと考えられる。
ただし、証券会社のリポートには、はっきりとした注意書きも並ぶ。第4四半期には、販売価格の好影響が薄れ、原材料高が本格的にコストに響き始めることで、利益率への圧力が出る可能性が指摘されている。ハイパースケーラー(巨大IT企業)による投資ペースの鈍化、顧客プロジェクトの遅延、部品不足の長期化、原材料価格の上昇、産業機器・自動車向け需要の弱さ、バーツ高といったリスク要因にも目配りが必要だとされる。
とくに、受注と設備稼働率の鈍化に、2027〜28年の業績予想の下方修正が重なるような局面は、株価上昇が業績のピークを待たずに息切れし始めるサインになりうるという。これは同時に、「大手顧客がコスト削減や発注絞り込みに動きかねない局面」でもある。起業家にとっては、AI関連の波に乗りつつも、非AI分野や複数顧客への分散を意識し、サイクルの山と谷の両方で回るビジネスモデルを設計できるかどうかが鍵になりそうだ。
グローバルなAI投資サイクルが2027年まで続くという見方は、タイの電子産業に中期的な追い風を示す材料である。一方で、その先に向けた業績予想の下方修正がすでに意識され始めている点は、事業計画を立てる際の「出口戦略」を早めに組み込むべきだという教訓にもなる。AIブームの熱気に押されすぎず、証券アナリストが注視する指標──受注、稼働率、原価、為替──を自分の取引先にも当てはめて点検する習慣を持てるかどうかが、タイでの小さな起業の成否を左右するとみられる。
