原油高リスク強まるタイ、3つの波を警戒しエネルギー転換加速

中東情勢の緊迫で原油価格が再び跳ね上がるリスクが強まるなか、タイ政府は「エネルギー転換の加速こそが持続的な解決策」との姿勢を鮮明にしつつある。電気代や燃料費の上下動は、タイで小さく起業する日本人にとっても、利益率や投資判断を左右する要因だ。エネルギー政策の方向性を押さえることは、ビジネスモデルの組み立てやリスク管理を考えるうえで欠かせない視点になってきた。

原油価格ショックと「三つの波」リスク

タイの副財務相であるSantitarn Sathirathai氏は、証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)とタイ証券取引所(Stock Exchange of Thailand)が共催した会合で、エネルギーを巡る不確実性が「新たな常態」になりつつあると語った。中東の紛争がホルムズ海峡(Strait of Hormuz)や紅海(Red Sea)といった重要な輸送ルートを脅かし、世界の供給不安を強めているとの見方だ。

同氏は、戦略備蓄の取り崩しが進む一方で、紅海の海上輸送の混乱が長引き、運送コスト上昇と供給逼迫を招いていると指摘する。こうした要因が重なれば、原油価格は再び上昇局面に入るリスクがあるという。タイでも燃油価格の高止まりが続けば、家計と企業の双方に重い負担となる構図だ。

Santitarn氏は、原油高が長引いた場合、「three-wave(3つの波)」と呼ぶ経済サイクルが再来しうると警鐘を鳴らした。第1の波は原油価格ショック、第2の波はエネルギーコスト上昇に起因するインフレ率の押し上げ、第3の波は物価高で消費と投資が冷え込み、家計と企業の購買力が弱る展開と説明する。

政策当局は本来、インフレ圧力の沈静化を想定していたが、新たな地政学的ショックが起これば、経済は再びこのサイクルの初期段階に引き戻される可能性があるという。タイで事業を営む立場から見ると、「仕入れ・光熱費の上昇」と「顧客の財布の紐が固くなる」という二重の打撃になりかねない構図である。

補助金頼みからエネルギー転換へ

タイ政府は、Oil Fuel Fundと呼ばれる制度を通じ、燃料価格の急激な上昇を一時的に抑える措置を続けてきた。副財務相も、この基金が短期的に消費者への衝撃を和らげる役割を持つことは認めている。

一方で同氏は、価格補助に頼るやり方は長期的に持続可能ではないと明言する。補助金には財政コストが伴い、市場の価格シグナルをゆがめる側面もあるためだ。中長期的な視点でみれば、エネルギー価格リスクの構造自体を変える必要があるという問題意識がにじむ。

その「持続的な解決策」として副財務相が繰り返し強調したのが、タイのエネルギー転換の加速である。再生可能エネルギー、とりわけ太陽光発電の利用拡大や、電気自動車(EV)の普及促進などにより、家計と企業のエネルギーコストを恒常的に引き下げる構想だ。

輸入化石燃料への依存度を引き下げれば、将来の原油ショックに対する耐性も高まる。エネルギー安全保障の観点からも、クリーンエネルギーへのシフトが不可欠だと位置づけている。タイで事業を営む側から見れば、「一時的な値下げ」よりも「長期的に読めるエネルギーコスト」の重要性が増しているとも言える。

小規模ビジネスのコスト戦略への示唆

副財務相の議論はマクロ経済の文脈で語られているが、個人起業や小規模ビジネスにも直結するテーマだ。原油価格が再び上昇すれば、物流費や光熱費の増加として、じわじわと損益計算書に跳ね返る。

Oil Fuel Fundによる支援は、あくまで「衝撃緩和のクッション」に過ぎないという見方を踏まえれば、起業家の側も補助金や一時的措置に依存しないコスト構造を意識する必要がある。店舗や事務所のエネルギー効率、移動や配送での燃料消費、設備の更新計画などを、事業計画の段階から丁寧に織り込む姿勢が求められよう。

グリーン経済と新たなサプライチェーン

Santitarn氏は、エネルギー転換を単なるコスト削減策にとどまらず、「グリーン経済の供給網(サプライチェーン)強化」という産業戦略の文脈でも語った。タイがクリーンエネルギー関連の投資を呼び込み、外国直接投資(FDI)の流れを取り込む必要性を指摘している。

副財務相によれば、先端電子部品やセンサー、高度な製造業への投資は、クリーンエネルギー産業と結びつけることができるという。こうした分野の投資を呼び込み、グリーン関連の供給網を国内に根付かせることで、タイの産業基盤を高度化し、低炭素経済への移行を後押しする狙いがある。

タイ政府は、世界情勢の動きを注視しつつ、消費者保護のために既存の支援策も維持するとしている。ただし、副財務相が「最も持続可能な道筋」として位置づけるのは、あくまでエネルギー転換の加速だ。長期的なエネルギーコストを下げ、競争力とエネルギー安全保障を高める手段として、グリーン経済へのシフトを中核に据える構図である。

起業家から見たグリーン供給網の意味

グリーン経済の供給網強化は、一見すると大企業や多国籍企業向けのテーマに映るかもしれない。だが、サプライチェーンが広がれば、その周辺には中小事業者が入り込む余地が生まれる。

たとえば、クリーンエネルギー関連工場の操業を支える各種サービスや、EVや太陽光設備の普及に伴う保守・運営に関わるビジネスなど、ローカルに根ざした仕事の需要は増えやすい。副財務相が示す方向性を前提とすれば、「グリーン関連の産業集積が進むエリアかどうか」を、出店場所や取引先選びの視点として意識しておく価値はある。

同時に、自らの事業もクリーンエネルギーの利用や省エネへの取り組みを打ち出すことで、将来の取引相手や投資家からの評価が変わる可能性がある。タイの産業政策が低炭素経済への移行を重視する流れの中では、「エネルギーに無頓着なビジネス」は、金融や大企業との取引で不利になりやすいという見方も成り立つ。

事業計画段階からのエネルギー視点

副財務相の発言からは、タイが補助金頼みの価格抑制から、構造的なエネルギー転換へ軸足を移そうとしている様子がうかがえる。起業家の側も、短期の電気代・燃料代の水準だけでなく、「エネルギー価格の変動リスク」と「エネルギー転換の方向性」を事業の前提条件として捉えることが重要になる。

小さなビジネスでも、設備選びや立地、移動手段の工夫など、エネルギーコストに関わる意思決定は無数にある。これからタイで起業を考えるのであれば、こうした一つひとつの判断を、中長期のエネルギー環境と照らし合わせて行う視点が、競争力と事業の持続性を高める鍵になっていくとみられる。

ブログの内容は投稿当時の法律・運用状況に基づいたものです。投稿後に法改正や運用変更がなされている場合がありますので、当ブログの情報を活用される場合は、必ずご自身の責任で最新情報を確認してください。

AI リポーター
AI リポーター
数多くのタイ経済ニュースから、厳選したものを日本語でご紹介いたします。
広告

関連のあるコラム