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2026年2月4日

タイで個人起業する日本人のためのデータセンターとAI戦略

タイで個人起業を狙う日本人が押さえるべき「データセンター覇権」の現場

タイ暦2566年(西暦2023年)以降、タイ政府は「東南アジアのデータセンターハブ」を目標に掲げ、政策と投資誘致を加速させています。個人で起業を検討する日本人にとって、これは一見「遠い世界」の話に見えますが、クラウド、AI関連ビジネスを志すなら、事業環境そのものを左右する重要な前提条件です。

本稿では、現地経営者や調査機関の見方を手掛かりに、タイでの個人起業にどう関わるのかを整理します。

インドの「20年免税」よりも、タイ起業家が気にすべきこと

インド政府は、国内に建設されたデータセンターを使って世界中の顧客にクラウドサービスを提供する外国企業に対し、「2047年までの税控除(実質20年以上のタックスホリデー)」を与える方針を打ち出しました。インド財務相が2026–27年度予算演説で言及したもので、クラウド事業者の将来の税負担懸念を和らげる狙いがあります。

一見すると、これはタイにとって強力な競合策に見えます。しかし、ドバイ拠点Edgnex Data Centres by DAMACのゼネラルマネジャーであり、タイ・データセンター協会副会長も務めるSupparat Singhara Na Ayutthaya氏は、こう分析します。

– タイにとって主要な競合は「インドネシアとマレーシア」であり、インドは別市場とみなされている

– したがって、インドの新政策が「直接的な脅威」となる可能性は低い

同様に、カシコンリサーチセンターのKrit Sitathani氏も、「タイの競合は主にマレーシアとシンガポールであり、インドではない」と指摘します。

日本人がタイで個人起業を考える際の含意は明確です。

– タイのデータセンターハブ戦略は、インドの新税制に左右されず継続する公算が大きい

– 中長期的に見ても、クラウドやAI関連サービスをタイで展開する前提は崩れていない

競争軸は「東南アジア域内」であり、インドとの直接比較よりも、タイ国内のインフラ整備がどこまで進むかに注目するほうが実務的です。

投資家が見ているのは「税制」よりも電力・水・ネットワーク

タイがデータセンター誘致競争で勝てるかどうかは、「税率の低さ」よりも、基盤インフラの質に左右されます。現地関係者のコメントは、個人起業家にとっても示唆的です。

7%VATよりも「免除のタイミング」が重要に

Supparat氏は、外国データセンター投資を引きつけるうえで、グラフィックス処理ユニット(GPU)輸入時の7%付加価値税(VAT)を免除できるかが最大のポイントだと指摘します。

– 現在は支払ったVATを「還付」する仕組み

– しかし、最初から課税しない「免除方式」に切り替えるべきだという主張

これは大規模データセンター向けの議論ですが、GPUを自前で購入してAIサービスを立ち上げる個人起業家・小規模スタートアップにとっても、初期投資負担とキャッシュフローに直結する論点です。

タイでAI関連の個人事業を考えるなら、

– 自前でGPUを輸入・調達するのか

– それとも、現地データセンターやクラウド事業者のGPUリソースを「利用する側」に回るのか

というビジネスモデルの設計に、この税制のあり方が影響してきます。

大型案件が見る「電力・水・ネットワーク」

Krit氏は、データセンター立地を決める主因として、次の要素を挙げています。

– 電力の供給力と料金、とりわけクリーンエネルギーを前提とした電力購入契約(PPA)の条件

– 水資源

– ネットワークのレイテンシー(遅延)と帯域

– 人材(ヒューマンキャピタル)

– サプライチェーンの整備度合い

データセンターそのものを建てるのは大企業ですが、そこに集積するのは、SaaS、AI、コンテンツ配信、BPOなど多様な中小・個人事業者です。インフラ条件が改善されればされるほど、

– レイテンシーを気にせずクラウドサービスを提供できる

– クリーンエネルギー志向のグローバル企業を顧客にしやすくなる

といった「二次的なメリット」が、個人起業家にも波及します。

BOI優遇と巨大投資が示す「エコシステム」の広がり

タイ投資委員会(BoI)は、データセンター、データホスティング、クラウドサービスへの投資要件と優遇策を見直し、「技術トレンド」と「実際の投資額」により近づける方針を取りました。

BoIの狙いは明確です。

– タイ経済への貢献がより明確な案件を誘致する

– 労働力の育成を支援する

– 自然資源とエネルギー資源の「責任ある管理」を促す

「最上位」の優遇を受ける条件

BoIによれば、最高レベルの税制優遇を受けるには

– 電力利用効率(Power Usage Effectiveness:PUE)に関する基準を満たすこと

– 高度なコンピューティング能力を備えたデータホスティングを提供すること

などが求められます。裏を返せば、タイは高度な計算資源(GPU等)を備えたデータセンター投資を歓迎している、というメッセージです。

日本人の個人起業家にとっては、自らがBoIの対象となるかどうかに加え、

– こうした「高性能・省エネ」のデータセンターが国内に増える

– その上で動くクラウドサービスやAI基盤を、比較的低レイテンシーで使えるようになる

という「インフラ面での追い風」として捉えるのが実際的です。

数字が示す市場規模

BoIは、年初1月15日の最初の理事会で、7件の大型データセンター・データホスティング案件を承認しました。投資額は合計で31億ドル超に上ります。さらに、2025年には36件、総額231億ドル規模のデータセンター案件の申請を受理したとしています。

これは、「箱もの」の建設だけでなく、

– 設備保守・運用受託

– データ移行・クラウド移行支援

– 人材育成・トレーニング

– 冷却・電源関連のソリューション

– セキュリティや監査対応のコンサルティング

といった周辺ビジネスの需要が、今後継続的に発生することを意味します。個人レベルの専門性を軸にした起業でも、このエコシステムに「横から乗る」発想が有効になり得ます。

「クラウド・AIネイティブ」政策と個人起業の戦い方

あるクラウドサービス事業者の関係者は、タイとインドは市場としては別だとしながらも、タイ政府がインドのモデルから学ぶ余地を指摘しています。この関係者は、次のような政策が重要だと述べています。

– 政府レベルで「クラウド・ファースト」方針を打ち出す

– 「AIネイティブ」の取り組みを推進する

こうした政策が実現すれば、データセンター需要が継続的かつ持続可能な形で成長するという見立てです。

個人起業家にとっての実務的な示唆

タイでクラウドやAI関連の個人起業を目指す日本人にとって、この流れは次のような形で具体的な意味を持ちます。

1. 政府・大企業の「クラウド移行」需要に便乗する

– クラウド移行設計、運用代行、コスト最適化コンサルティングなど、スモールスタートが可能な分野で参入余地が生まれやすい。

2. AIネイティブ化に伴う業務プロセスの見直し支援

– Chatbot導入や業務自動化に限らず、「AIを前提に業務設計し直す」企業向けに、要件定義・PoC支援などの個人コンサルティング需要が見込まれる。

3. GPU取得戦略を見極める

– 7%VAT免除をめぐる議論にあるように、ハードを自前で持つと税とキャッシュフローの影響が大きい。

– 初期は、BoI優遇を受けたデータセンターやクラウド事業者のリソースを「借りるモデル」で事業を設計し、スケール段階で自前投資を検討する、という段階的アプローチが現実的になりやすい。

4. インフラの不確実性を前提にしたサービス設計

– タイがどこまで電力・水・ネットワークを整備できるかは、今も政策議論の中心にあります。

– 自社サービス側では、マルチリージョン構成やバックアップ回線の前提を早めに織り込むことが、長期的な差別化につながります。

結論:タイでの個人起業は「インフラを見る」視点が鍵

タイは、インドの20年免税策に直接は脅かされていません。むしろ、インドネシア、マレーシア、シンガポールとの間で、電力・水・ネットワーク・人材・サプライチェーンを総合した「インフラ競争」を続けています。

– BoIが推進するデータセンター・クラウド投資は、既に数十億ドル規模に達し、今後も拡大が見込まれる

– GPU課税やクリーン電力調達をめぐる議論は、「AI・クラウドビジネスの原価構造」を左右する

– 政府レベルのクラウド・ファースト、AIネイティブ政策が実現すれば、個人起業家にとっても継続的な需要源となり得る

タイで個人起業を考える日本人は、「どのサービスで勝つか」だけでなく、

1. どのデータセンター・クラウド基盤に乗るのか

2. 電力やネットワークを含むインフラ条件が、中長期の競争力にどう影響するか

3. BoIを軸とした大規模投資の「周辺」に、どんなニッチが生まれるか

という視点から、自らのポジションを冷静に設計する必要があります。

タイ暦2566年(西暦2023年)以降の動きを俯瞰すれば、タイでのクラウド・AI関連個人起業は、インフラ整備の行方を注視しつつ、エコシステムの「すき間」を的確に突くプレーヤーにこそチャンスが開けていると言えます。

Photos provided by Pexels
参照記事:https://www.bangkokpost.com/business/general/3189789/indias-pledge-no-threat-to-local-data-centres

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