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2026年1月21日

タイで個人起業する日本人のためのデジタル政策と実務戦略

タイで個人起業する日本人が押さえるべき「デジタル国家」論争のいま

— 仏暦2566年(西暦2023年)の政策議論から読むビジネス環境

タイでの個人起業を検討する日本人にとって、近年の選挙公約における「デジタル」「AI」の扱いは、単なる政治ニュースではなく、自身のビジネス環境そのものを左右する重要なシグナルになりつつある。

仏暦2566年(西暦2023年)時点で、主要政党はいずれも人工知能(AI)、ビッグデータ、スマートプラットフォームを前面に押し出している。だが、その中身を精査すると、タイのデジタル経済が抱える構造的な課題と、個人事業レベルの日本人起業家にとってのチャンスとリスクが立ち上がってくる。

以下では、タイ人工知能起業家協会(AIEAT)会長のチャーンウィット氏、タイ・デジタル評議会(Digital Council of Thailand)のパトム氏らの発言を手掛かりに、仏暦2566年時点の議論をビジネス視点で読み解いてみたい。

1. 「デジタル中所得国の罠」と日本人起業家への示唆

AIEATのチャーンウィット会長は、タイが「デジタル版の中所得国の罠」に陥っていると指摘する。すなわち、デジタル技術は広く使われているものの、付加価値の源泉となるイノベーションには十分つながっていない、という問題意識だ。

各政党が掲げるAIやビッグデータの公約は、一見するとテック業界の勝利に見える。しかし同氏は、「持続的なデジタル未来」を有権者に問うのか、それとも「派手なガジェット」を提示しているだけなのか、と疑問を投げかける。

日本人がタイで個人事業を始める場合、この視点は重要だ。

派手なアプリやAIを“売り物”にするビジネスよりも、次のような方向性が、タイの課題とフィットしやすい。

既存の中小企業の生産性を底上げするサービス

– 会計・在庫・顧客管理など、地味だが必須の領域でのDX支援

「ガジェット」ではなく「仕組み」を変えるソリューション

– データの見える化、業務プロセスの標準化、AI導入時のルール設計など

政党間の議論が、AIを「魔法の杖」としてではなく、産業構造を変える「地味なインフラ」として捉え始めている点は、こうした実務寄りの個人ビジネスにとって追い風になりうる。

2. 各政党のデジタル公約から読み取るビジネス機会

2-1. 「スーパーアプリ」とAI弁護士:データ集中時代の事業設計

ある政党は、政府サービスを一元化する「スーパーアプリ」構想を掲げている。

健康情報や金融情報を含む6,600万人分のデータを一つのアプリに集約する構想で、行政サービスの効率化を狙うものだ。

同時に、タイ法に基づき無料で法律相談を行う「AI弁護士」チャットボットのアイデアも示されている。ここでチャーンウィット氏が警鐘を鳴らすのは、以下の点である。

– 大規模言語モデルは「ハルシネーション(誤情報生成)」を起こしうる

– 法律分野では誤回答が重大な責任問題に直結する

– 人間によるチェック(human-in-the-loop)抜きの運用は危険

– 超大量の個人データ集中には、最高水準のサイバーセキュリティが不可欠

日本人起業家にとっての示唆は明確だ。

1. **法務・税務・医療など「高リスク領域」でAIを扱うときは、

人間による確認プロセスを前提にしたビジネスモデルにすること。**

2. データ保護・プライバシー・セキュリティを「売り」にできる余地が大きいこと。

例えば、

– 行政スーパーアプリと連携しつつ、個人や中小企業向けに「データの見える化」「権限管理」をサポートするツール

– AI弁護士のような公的サービスに対して、「セカンドオピニオン」として人間専門家を仲介するオンライン相談サービス

など、国家レベルのデジタル基盤の“すき間”に、個人ベースでも入り込む余地はある。

2-2. 半導体とオープンECネットワーク:プラットフォーム依存をどう読むか

別の政党は、タイの産業基盤を半導体(上流工程のチップ製造)へシフトさせるという、極めて野心的な構想を持つ。

同氏によれば、これは経済停滞に真正面から切り込む数少ない政策だが、

– 一貫した研究開発投資に10年単位の時間がかかること

– 何千人もの博士号人材が不足していること

などから、「道路をつくる」ような短期政策とは全く性格が違う、と指摘されている。

加えて、外国系巨大ECの寡占を崩すための「オープン・デジタル・コマース・ネットワーク」構想も示されている。

理論上は、中小企業や個人商店にとって市場参入コストを下げる可能性を秘めるが、

– 実現には高度な技術協調が必要

– 現場レベルでは標準・運用ルールの調整が難しい

という課題がある。

日本人の個人起業家にとっては、次のような見方ができる。

短期的には、既存の外国系ECプラットフォームへの依存は続く可能性が高い。

– 一方で、中長期的には「オープン」なコマース基盤が育ってくれば、

– 出店コストの低下

– 特定プラットフォームへの依存リスクの軽減

といったメリットを享受できる余地がある。

つまり、現時点では

– 既存大手プラットフォーム上での販売・マーケティングノウハウを磨きつつ、

– 将来の「オープンネットワーク」時代に備え、商品データや顧客データを自前で整理・蓄積しておく

という二段構えの戦略が合理的だといえる。

2-3. AIリテラシーとクラウド支援:スキルギャップを埋めるビジネス

別の政党は、より地に足の着いたアプローチとして、

– 労働力全体のAIリテラシー向上

– 中小企業向けクラウド利用バウチャー

といった、いわば「デジタル配管工事」にあたる政策を掲げている。

同党は、「バンコクにシリコンバレーをつくる」以前に、

– コードを理解し、

– クラウドを使いこなせる人材基盤がなければ、

どのみち上滑りに終わる、という現実を直視している。

日本人個人事業にとっては、ここに分かりやすいビジネス機会がある。

– 中小企業向けのAI・クラウド活用トレーニング

– 既存業務フローを踏まえた「使えるレベル」の導入コンサル

– 小規模事業者向けテンプレート型のクラウド導入パッケージ

など、「ハイテク」そのものよりも、「ハイテクを現場に落とし込む橋渡し」が価値になる領域だ。

2-4. 保険テックと気候リスク:災害対策の自動化ニーズ

さらに、別の政党はAIと衛星データを組み合わせ、洪水などの災害発生時に自動で給付金を支払う「パラメトリック保険」型の仕組みを提案している。

– 災害発生の判定と支払いを自動化することで、

– 人的な恣意性

– 汚職

を排除できる可能性がある。

– 一方で、気候変動が加速した場合、財政負担が急膨張しかねないという指摘もある。

この議論は、タイが今後も「水害・気候リスク」を重視せざるを得ない国であることを示している。

日本人個人事業としては、

– 災害リスクの見える化ツール

– 中小企業向けの簡易なBCP(事業継続)プラン作成支援

– 洪水リスクを踏まえたロジスティクス・在庫配置のアドバイス

など、保険テックと親和性の高い周辺サービスを小さく始める余地がある。

3. 「AI安全インフラ不在」という見えないリスク

チャーンウィット氏が最も懸念しているのは、「何が提案されているか」よりも、「何が提案されていないか」だ。

– 裁判所、病院、災害対応など、社会的に極めて重要な領域でAIを導入しようとしている一方で、

– それらの政府AIシステムを事前に監査する独立したAI安全機関の設置を、本格的に提案している政党がほとんどない。

同氏は、次のような問いを投げかける。

– 洪水支援を判断するAIの精度を、誰が事前に検証するのか。

– AI弁護士が誤った助言をしたとき、誰が責任を負うのか。

この「監査なきAI」のリスクは、民間側にも跳ね返る。

AIを活用したサービスを提供する日本人起業家にとっては、

アルゴリズムの説明可能性

– 誤判定時の救済・再検証プロセス

– 人間が最終判断する運用ルールの明文化

を、自主的に設計し、対外的にも示すことが信頼獲得のカギになる。

国家レベルのAI安全インフラが不十分な段階では、

– 「責任の所在をはっきりさせる事業者」であること

自体が、差別化要因になると考えるべきだ。

4. データ構造とアクセシビリティ:スタートアップの「地盤」を読む

タイ・デジタル評議会のパトム氏は、「各政党がようやく同じ言葉を話し始めた」と述べる。

すなわち、「デジタル」と「AI」がもはや“新しいおもちゃ”ではなく、「国家の基盤インフラ」として扱われつつある、という認識だ。

同氏が強調する論点は二つある。

4-1. 共有データ構造がなければ「きれいなだけのプロジェクト」に終わる

– 多くの政党が、スーパーアプリ、中央プラットフォーム、AIハブ、スマートシティなどを打ち出している。

– しかし、各省庁・各機関がバラバラのデータ形式・標準で動けば、

– 見かけは華やかだが

– 国家レベルのインパクトに欠ける「個別プロジェクトの寄せ集め」になってしまう。

そのため、政府は共通のデータ構造・デジタルアーキテクチャを最初から設計すべきだという。

日本人起業家にとっての含意は以下の通りである。

– APIやデータ連携を前提にしたサービスは、標準の動向に敏感である必要がある。

– システム設計の段階から、

– データ形式

– ID管理の方式

– 権限付与のルール

を柔軟に変更できるようにしておかないと、標準変更のたびに作り直しを迫られるリスクがある。

逆にいえば、

– 異なる省庁・機関の間を橋渡しする「アダプター」「変換サービス」

を提供できれば、小規模でも高付加価値のニッチを押さえることも可能だ。

4-2. 高齢者・障がい者・低リテラシー層を包摂する設計

パトム氏は、「AI for All」「スキルプラットフォーム」といったスローガンが並ぶ一方で、

– 障がい者

– 高齢者

– デジタルリテラシーの低い層

への具体的な配慮が不足しがちだと指摘する。

同氏が描く「良いデジタルシステム」とは、

– 人々を他者への依存から解放し、自立度を高めるものであり、

– 逆に、登録手続きの複雑さから高齢者が詐欺に遭うような、

「デジタル化が人を脆弱にする」現状は誤った設計だ、という問題意識だ。

ここには、日本人個人起業家にとって明確な市場がある。

– 高齢者向けの超シンプルUIを備えた行政手続き支援アプリ

– デジタルが苦手な人向けの対面+オンライン・ハイブリッド支援サービス

– 障がい者を含む多様なユーザーを想定したアクセシビリティ実装のコンサルティング

といった、いわば「包摂型デザイン」の分野は、政治レベルでも問題意識が共有されつつある分、社会的な支持を得やすい領域になりうる。

5. 国家プラットフォームと民間の関係:どこにポジションを取るか

パトム氏は、政党との協議の中で議論されている「ナショナル・プラットフォーム」構想についても、重要な条件を挙げている。

– 国家プラットフォームは構築されるべきだが、新たな「国営独占」になってはならない。

– その役割は、タイの民間企業やスタートアップがその上にサービスを構築できる土台として機能することである。

– デジタル主権とは、「鎖国」ではなく、自由貿易の中で交渉力を持つための基盤だと位置づけている。

この考え方を前提にすると、日本人個人起業家が取るべきポジションは明確になる。

1. 「国家プラットフォームと競合する」のではなく、「その上に乗る」。

– 認証、支払い、身分証明、各種行政データへのアクセスなど、

国家側が用意する“共通機能”を前提にしつつ、

– その上で特定業界や地域向けの専門サービスを積み上げる。

2. 国営の枠外にある「ホワイトスペース」を狙う。

– 官側が苦手なユーザー体験(UX)、多言語対応、きめ細かいサポートなどは、

個人事業レベルでも十分に価値を出せる領域だ。

6. 日本人個人起業家にとっての3つの戦略ポイント

仏暦2566年時点のタイのデジタル・AI政策議論を踏まえると、日本人がタイで個人起業する際には、次の3点が中長期の軸として浮かび上がる。

6-1. 「ガジェット」ではなく「インフラ志向」で考える

– 一時的な流行アプリよりも、

– 既存中小企業の業務プロセスを着実に改善する

– 行政・社会インフラとつながる

といった、地味だが“抜けづらい”サービスを目指す。

6-2. 説明責任と人間の関与をビジネスモデルに組み込む

– AI活用サービスを提供する場合、

– アルゴリズムの前提と限界をどこまで説明できるか

– 誤判定時の救済フローをどう設計するか

– どの段階で人間が最終判断するか

をあらかじめ定義し、それを前面に打ち出すことで、

国家レベルのAI安全インフラ空白を補完する存在になれる。

6-3. 「デジタル弱者」を顧客として正面から捉える

– 高齢者、障がい者、低リテラシー層は、

– デジタル化の進展とともに

– 行政手続きや各種給付金へのアクセスで不利になりがちな層だ。

– 彼らを支援するサービスは、

– 社会的意義が高く

– 政策議論との整合性も取りやすい。

ユーザーインターフェースの単純化、詐欺被害防止の啓発、代理登録支援など、個人レベルでも着手しやすい領域は多い。

結び:タイの「デジタル転換」をどう味方につけるか

チャーンウィット氏は、タイがこのデジタル転換期を生き残るためには、

– 深い技術に踏み込む野心(半導体など)

– 教育・リテラシーへの地道な投資

– 気候リスクへの実務的なテック活用

– データ集中に伴うプライバシーへの極めて慎重な対応

を組み合わせる必要があると指摘する。

パトム氏は、AIによる汚職防止や詐欺対策を歓迎しつつも、

説明可能で監査可能なAI

– 誤りが起きたときの明確な救済メカニズム

が欠けた「賢い政府」は、かえって問題を増やすと警鐘を鳴らす。

この二人の視点を踏まえると、タイで個人起業する日本人に求められるのは、

– 流行りのAIやアプリに飛びつくのではなく、

– 「インフラ志向」「説明責任」「包摂性」というキーワードで自らのビジネスを点検する姿勢だ。

仏暦2566年の選挙公約は、タイが「デジタルとAIを前提とした国」へと確実に舵を切りつつあることを示している。

その変化の只中で、小さくても社会の“配管”を支えるプレーヤーになれるかどうか—そこに、日本人個人起業家の勝ち筋が見えてくる。

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参照記事:https://www.bangkokpost.com/business/general/3178884/parties-tout-digital-tech-in-poll-campaigns

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