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タイで個人起業を考える日本人が押さえておくべき「デジタル経済」政策のいま
タイで個人としてビジネスを立ち上げようとする日本人にとって、マクロのデジタル政策は一見遠い世界の話に見えます。しかし、行政のデジタル化やインフラ整備の方向性は、スタートアップやスモールビジネスの日々のオペレーション、コスト構造、そして事業機会そのものを左右します。
タイでは一般に仏暦が使われており、西暦2023年は仏暦2566年に相当します。近年のタイ政治・政策議論では、この仏暦2566年前後を通じて「デジタル経済」への転換が大きなテーマとなっています。本稿では、タイ政府系デジタル機関のトップらの発言を手掛かりに、個人起業家が押さえておきたいポイントを整理します。
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政党のデジタル政策は「方向性◯、中身はこれから」
タイのデジタル経済推進機関トップであるナッタポン・ニマンパチャリン氏(Digital Economy Promotion Agency=DEPAの社長兼CEO)は、主要政党のデジタル関連公約について「悪くはないが、デジタル経済の再構築という観点での踏み込みが足りない」と評価しています。
具体的には、複数政党のデジタル政策を5点満点中3.5点としつつ、次のような問題意識を示しています。
– オープンデータやAI活用など、テーマ自体は出そろっている
– 一方で、「デジタル経済をどのような姿に組み替えるのか」という設計図が曖昧
– 有権者にとって分かりにくく、票になりにくいテーマであるがゆえに、詳細設計が後回しになっている可能性
タイで起業する側から見れば、「おおまかな方向性は示されたが、制度・インフラ・実務のレベルではまだ不透明」という状況だと理解しておくべきでしょう。
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キーは「国家クラウド」:インフラ不足がボトルネック
ナッタポン氏が特に強調するのが、デジタル経済を支える基盤インフラの不足です。
政党側からは、
– 政府データの連結
– 行政サービスを束ねる「スーパーアプリ」の構想
などが打ち出されているものの、「その裏側を支えるクラウドインフラについては、ほとんど具体像が示されていない」と指摘します。
現在、国営企業であるNational Telecomが政府データセンターとクラウドサービスを担っていますが、
– 将来的に多様なサービス(SaaS、PaaS等)を十分に支えられるキャパシティがあるのか
– 行政のデジタル化・民間のDX需要の双方を長期的に支えられるのか
といった点には疑問符がついているという見立てです。
そのうえで同氏は、「タイには新たな“国家クラウド”インフラが必要だ」と警鐘を鳴らしています。
個人起業家にとっての意味
このインフラ議論は、日本人の小規模ビジネスにも直結します。
– クラウドやSaaSを前提にしたサービス展開をする場合、
タイ側インフラの成熟度や行政の調達姿勢が、ビジネスの伸び方を左右する
– 逆に言えば、「インフラの不足」を補うサービスや、
既存クラウドを使った効率化ソリューションには、まだ伸びしろがある
と解釈できます。タイ現地で小さく始める日系個人事業でも、
「自社プロダクトの提供」だけでなく「インフラの未整備をどう前提条件に織り込むか」を、事業計画段階から意識しておくことが重要です。
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「安心して使えるデジタル社会」づくりとビジネスチャンス
ナッタポン氏は、タイが目指すべき方向として
「人々がより良く生活し、より早く考えられるようにすること」、
そのために「デジタル技術への信頼(トラスト)を高める必要がある」と述べています。
その具体像として、次のような論点が挙げられています。
– AIを活用した「真偽判定ツール」「データ検証システム」の開発をスタートアップに促す
– 国民が目にするコンテンツが偽物かどうかを見分けられるようにする
– 行政機関間での情報共有を安全かつ透明にするため、公的部門のガバナンス法制(Public Sector Governance Act)の改善が必要
– 中小企業の輸送コストを下げるため、政府主導で物流システムを統合すべき
– すべての政府サービスを、身分証確認アプリ「ThaID」に集約していくべき
– ECで売ること自体は難しくないが、「利益を出せる仕組み」にするには、政府と民間が一体となる「OneTeam E-Commerce」政策が重要
これらは一見「国家ビジョン」に聞こえますが、個人起業家レベルでも具体的な示唆があります。
スモールビジネス目線での示唆
1. 信頼性・透明性は“売れる価値”になる
フェイクコンテンツが問題視される環境では、
– データの裏取りができる
– 取引履歴が明確
– セキュリティやプライバシー保護を説明できる
というだけで、サービス価値が相対的に高まります。
2. AIを使った検証ツールは、起業テーマになりうる
ナッタポン氏は、AIによる真偽判定ツール開発をタイ人スタートアップに期待しています。
ここには、
– コンテンツの自動チェック
– 企業間取引のデューデリジェンス支援
など、B2B・B2C双方で多様な応用の余地があります。
3. 物流統合の動きは、ECビジネスの採算性を変える可能性
政府が物流システムの統合に動けば、
– 配送コストの低減
– 地方への配送網の改善
が期待されます。個人輸入販売や越境ECを考える起業家にとっては、
「物流コスト構造が将来どう変わるか」を見込んだ設計が必要です。
4. 行政サービスのThaID集約はB2G・B2B連携の入口
ThaIDに行政サービスが統合されれば、
– ID認証を前提にした民間サービスの設計
– 行政手続きと連動したB2Bサービス
の余地も生まれます。将来的なAPI連携などを想定したサービス設計ができれば、
タイのデジタル行政との親和性が高まります。
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「スピード」「イノベーション基盤」への視線:制度はまだ道半ば
国家イノベーション庁(National Innovation Agency)のクリッパカー・ブーンフアン氏は、各政党が技術を使って社会問題を解決しようとしている点については「前向きな兆候」としつつも、重要なのは「どの政党が、どれだけ速く実行できるかだ」と、スピードの重要性を指摘します。
同氏によれば、国家レベルでイノベーションを生み出すには、次のような“基盤”の整備が欠かせません。
– 教育
– イノベーションや先端技術に関する公共政策
– 規制(ルールメイキング)
– 知的財産制度
– 社会的セーフティネット
さらに、政党のデジタル政策は、
とりわけ農業セクターが抱える課題(農家の低所得・高債務)を解決する方向でデザインされるべきだとも述べています。
日本人個人起業へのインプリケーション
この発言が意味するのは、タイのデジタル・イノベーション環境が
– 基本インフラは整備途上
– ただし、国家としてイノベーション重視の方向には舵を切っている
– 特に「農業×デジタル」のような領域は、課題が大きく、政策の重点にもなりやすい
という構図です。
農業関連サービスに限らず、「業界の構造的な課題」をデジタルで解決するビジネスは、
政策の追い風を受けやすくなります。
小さく始める個人起業であっても、ターゲット業種の構造問題を理解しておくことが、中長期的な事業の伸びを左右することになります。
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「中所得国の罠」と向き合うタイで、何を前提に起業すべきか
ナッタポン氏は、新政権のもとで抜本的な改革が進まなければ、
タイは中所得国の罠(middle-income trap)に長期的にとどまりかねないと警告しています。
これは、個人起業家にとって次のような意味を持ちます。
– 短期的な景気刺激や補助金頼みのビジネスモデルは、政策の変化に弱い
– デジタルインフラや制度整備には時間がかかるため、「ギャップ期」を逆にビジネスチャンスとみなせるかが鍵
– 行政や大企業が手を付けづらい、ニッチで非効率な領域こそ、個人起業が入り込む余地が大きい
タイで個人としてビジネスを立ち上げる日本人にとっては、
1. 政策・インフラは「まだ完全ではない」と割り切る
2. その未整備部分を前提条件として事業計画に織り込む
3. デジタル信頼性や透明性、物流効率化など、政策が向かおうとしている方向に沿ったサービスを設計する
という3点が、現実的なスタートラインと言えます。
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まとめ:タイで個人起業するなら、「制度の過渡期」を見極める
本稿で見てきた通り、タイはデジタル経済への転換を掲げつつも、
– 国家クラウドを含むインフラ整備
– 行政データの連携・ガバナンス
– デジタル信頼性の確保
– 物流統合やECの収益性改善
– イノベーション基盤整備と農業など構造問題の解決
といったテーマが、なお「設計と実行の途上」にあります。
日本人がタイで個人起業を行う際には、
– 現状のインフラ・制度を冷静に見極める
– 将来の政策方向(クラウド、ThaID、AI真偽判定、物流統合など)を頭に入れつつ、段階的に事業を組み立てる
– 「トラスト」「透明性」「効率化」といったキーワードを、自らのビジネス価値の中心に据える
ことが、中長期的に生き残るための現実的な戦略となるでしょう。
タイのデジタル経済は、まだ完成形にはほど遠い「工事中の市場」です。
だからこそ、小回りの利く個人起業家にとっては、ニッチを突く余地が大きいとも言えます。
制度とインフラの過渡期にある、このタイミングをどう読み解くかが、日本人起業家の成否を分けることになりそうです。
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参照記事:https://www.bangkokpost.com/business/general/3183234/parties-urged-to-focus-on-digital-development
