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2026年1月14日

タイで起業する日本人が押さえるべき「債券市場の現実」

タイで個人起業する日本人が押さえるべき「債券市場の国」という現実

タイでの個人起業を考えると、多くの人は「法人設立の手続き」や「ビザ・労務」といった実務に目が向きがちだ。しかし、ビジネスを継続的に成長させるうえで、もっと上位にある「国全体の資金の流れ」を理解しているかどうかが、意外に効いてくる。

タイの資本市場はいま、「銀行中心」から「債券市場を柱とする構造」へと静かに姿を変えつつある。これは、個々の起業家にとっても、リスク認識やビジネスチャンスの見つけ方に直結する変化だ。

なおタイでは、仏暦(B.E.)が日常的に使われており、仏暦2566年は西暦2023年に相当する。公的資料を読む際には、この換算を頭に入れておきたい。

「銀行1強」から「3本柱」へ—タイ金融市場のいま

タイ債券市場協会(ThaiBMA)の集計によれば、直近の年次データでみたタイの金融市場全体の規模は51.8兆バーツに達し、国内総生産(GDP)の約279%に相当する。数字だけを見れば、経済規模に比べて相当に分厚い金融市場を持つ国だと言える。

内訳は次のとおり、ほぼ「三つ巴」の構図になっている。

銀行貸出:18兆バーツ(全体の34.8%)

債券:17.9兆バーツ(34.5%)

株式:15.9兆バーツ(30.7%)

かつてタイでは、企業金融の主役は銀行貸出だった。しかし、いまや債券市場が株式市場を上回り、銀行貸出と肩を並べる規模にまで成長している。ThaiBMAのソムジン・ソーンパイサーン会長は、この拡大ぶりを「1990年代後半には10兆バーツに満たなかった債券残高が、いまや18兆バーツ近くにまで増えた」と表現している。

この変化が意味するのは、資金調達構造のバランス化だ。銀行への依存度が高い国ほど、銀行システムに問題が起きたときのショックは大きくなる。タイでは、銀行、債券、株式がほぼ3等分という状態になりつつあり、会長自身も「現在のような世界的不安定のなかでも、タイが再び深刻な金融危機に陥る可能性は非常に低い」と指摘している。

タイで会社を起こす個人にとって、金融システム全体の安定性が増しているというのは、長期計画を立てやすい環境が整いつつある、という意味でもある。

世界標準に近づく「債券市場中心」の構図

ソムジン会長は、タイの債券市場の拡大を「世界的な潮流の一部」と位置づけている。事実、先進国の多くでは、以下のような構図が一般的だ。

米国

国際決済銀行(BIS)のデータによれば、米国の債券市場(国債、社債、住宅ローン担保証券など)の残高は5兆ドルどころか、50兆ドルを大きく上回る規模に達しており、株式市場や銀行信用を大きく凌駕している。

欧州・日本

欧州や日本も同様に、債券市場が経済ストレス時の「ショックアブソーバー」として機能している。日本の読者にとっては、巨大な国債市場が金融システムの土台になっている構図は、感覚的に理解しやすいだろう。

ThaiBMAは、タイの資本市場構造がこうした世界の「標準形」へ徐々に収斂していると見る。成熟した金融システムでは、債券市場が株式市場や銀行貸出よりも構造的に大きくなることが多く、それが「市場の厚み」「レジリエンス(耐性)」「長期資金供給力」の指標とされている。

タイは、まさにその方向へ歩を進めている。

債券市場の拡大は、個人起業家に何をもたらすか

では、こうしたマクロな変化は、タイで小さくビジネスを始める日本人起業家にとって、どのような意味を持つのか。ThaiBMAのコメントと数字から読み取れるポイントを、起業家目線で整理してみる。

1. 「次の危機」に対する耐性が高まる

ソムジン会長は、現在のような世界的なボラティリティ(変動)のなかでも、タイが再び大規模な金融危機に陥る可能性は「非常に低い」と述べている。その根拠は、まさに資金調達手段の分散にある。

– 債券が政府財政運営の重要な資金源になっている

– 企業も中長期資金の調達手段として債券を活用している

– その結果、満期のミスマッチ(短期資金で長期投資を賄うリスク)が軽減され、バランスシートが強化されている

これは、個人起業家にとっては次のような意味合いを持つ。

– 激しい世界情勢の変化があっても、国内金融システムがパニックに陥る確率は下がる

– 取引先企業の財務基盤も、構造的に安定しやすくなる

– 中長期の投資や雇用計画を立てるうえで、「政策や金融システムが突然崩れるリスク」への過度な備えを意識せずに済む

もちろん、どの国にもリスクはあるが、「どの程度の尾(テール)リスクを前提に事業を組み立てるか」を考える際、タイの金融構造は年々「読みやすい」方向に向かっていると見てよさそうだ。

2. インフラ・エネルギー・高齢化関連で、大型需要が継続的に発生

ThaiBMAは、今後のタイの資金需要について、

長期インフラ投資

エネルギー転換プロジェクト

人口動態に起因する財政支出

といった分野へのシフトを挙げている。こうした用途にこそ、債券市場が不可欠だというのが、ソムジン会長の見立てだ。

ここから読み取れるのは、タイでは今後も次のようなプロジェクトが継続的に生まれる可能性が高い、ということだ。

– 道路・鉄道・港湾などのインフラ整備

– 再生可能エネルギーを含むエネルギー関連投資

– 高齢化や人口構造の変化に対応した公共サービスや社会保障関連支出

個人起業家は、これらのプロジェクトの「周辺」や「サプライチェーン」に目を向けることで、中長期的な需要を取り込む余地が出てくる。

例えば、

– インフラ工事に付随する各種サービスやロジスティクス

– エネルギー転換を支える周辺技術・運用支援

– 高齢化対応の周辺サービス(生活支援、コミュニティ運営など)

といった分野では、直接債券を発行する主体でなくとも、債券で調達された資金が回り回って需要を生み出す構図が想定される。日本人起業家にとっては、自身の強みをこうした流れにどう接続しうるか、という視点が重要になる。

3. 銀行リスクの「一点集中」からの脱却

ThaiBMAは、債券市場の発展により、銀行システムへの集中リスクが和らぐ点も強調する。債券は、

– 期間のミスマッチを抑えやすい

– 価格が市場で形成され、透明性が高い

– 金融システム内のリスクが、銀行に過度に集中しにくい

といった特徴を持つ。

個人レベルの起業では、依然として資金調達の主な相手は銀行になるケースが多いだろう。しかし、その銀行の背後にある金融システム全体が、より分散され、透明性の高い形でリスクを引き受ける構造に移りつつあるという点は無視できない。

– 銀行のバランスシートが、過度に大口企業向け融資に偏らなくなる

– 大企業は自ら債券市場で中長期資金を調達し、銀行は別の役割にリソースを振り向けられる余地が生まれる

こうした構造変化は、結果として銀行自身の健全性や、長期的な取引の継続性の向上を通じて、個人起業家にもじわじわとメリットをもたらしうる。

起業家が「債券市場」をどうビジネスに織り込むか

個人事業レベルで自ら債券を発行することは通常想定しにくいが、それでも「債券市場の国」になりつつあるタイで起業する以上、以下の観点は意識しておく価値がある。

1. マクロ指標として債券市場をウォッチする

政府や企業の資金調達の主戦場が債券市場である以上、その動きは近い将来の投資・支出計画に反映される。金利水準や発行動向の変化は、中長期の需要トレンドを読むうえでのヒントになる。

2. インフラ・エネルギー関連の中長期案件にアンテナを立てる

債券で賄われるプロジェクトは、概して期間が長く、規模も大きい。その周辺に位置づけられるサービスやサプライチェーンに食い込めれば、比較的安定した売上基盤につながる可能性がある。

3. 取引先の「資金の裏側」を意識する

取引相手が、銀行借入よりも債券で中長期資金を賄っている企業であれば、バランスシートの安定度合いが変わる可能性がある。すべての企業に当てはまるわけではないが、相手の資金調達構造を推測しながら取引リスクを評価する視点は、タイでは今後いっそう重要になるだろう。

タイで起業する日本人への実務的示唆

最後に、タイで個人起業を志す日本人が押さえておきたいポイントをあらためて整理しておく。

– タイの金融市場は、銀行・債券・株式がほぼ均衡する「3本柱」の構造に近づきつつある

– 債券市場は、政府と企業の中長期資金調達の「基盤」としての役割を強めており、金融危機リスクを和らげるクッションとして機能し始めている

– 今後の資金需要は、インフラ、エネルギー転換、人口構造対応の財政支出にシフトすると見込まれ、これらの分野の周辺にビジネスチャンスが生まれやすい

– 銀行依存一辺倒の金融システムからの脱却は、長期的には、起業家にとっても取引先・金融機関の安定性向上という形でプラスに働く可能性が高い

– 公的資料や契約書では、仏暦表記が一般的であり、仏暦2566年=西暦2023年など、年号の読み替えには注意が必要である

起業の現場だけに目を奪われず、タイという国がどのような資金調達の構造へと舵を切っているのかを俯瞰しておくこと。それが、変動の激しい世界のなかで、自分のビジネスをどこに置き、どの程度のリスクを前提に動くべきかを見極めるうえで、何よりの羅針盤になる。

Photos provided by Pexels
参照記事:https://www.bangkokpost.com/business/investment/3175155/thai-bond-market-follows-global-trend

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AI リポーター
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