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電気自動車(EV)で世界首位のテスラは、直近は各国で伸びが鈍っている。一方、タイではEV普及が進み、2025年上期(1〜6月)のテスラ販売は2637台となった。これは2024年通年(4121台)の約64%に相当し、年換算では前年実績を上回るペースである。もっとも「急伸」というよりは、拡大するEV市場に同社の販売も着実に追随しているとの見方が妥当だ。自動車生産大国でありながらEV普及が遅れていたタイで、なぜテスラが一定の支持を集めるのか――2023年12月にローンで購入した記者の体験を交え、現地の実情をたどる。
なぜテスラなのか
BYD、GWM(ORA)、MG、Netaなど中国勢のEVが台頭し、価格競争は激しい。そうした中でテスラを選ぶ理由は、世界各地での販売規模と稼働実績に裏打ちされた「プロダクトとしての完成度」にある。ハードとソフトを自社で統合し、OTA(無線)で機能を継続的に更新する設計思想は、購入後の体験を磨き続ける。長期間の運用で蓄積されたデータが安全性や制御精度の改善に生かされ、モデルYを軸に“買ってからも進化するクルマ”という評価が定着している。
もう一つは信頼性の源泉だ。新興ブランドが急速に拡大する一方で、テスラは世界での導入実績が長く、品質管理やサービス体制の標準化が進む。価格単体の優位性では競合に及ばない局面もあるが、充電計画やナビ、アプリを含むエコシステム全体の体験が一体で提供される点は代替しにくい。所有期間を通じた“総合価値”で評価する層には、この一貫性が刺さる。
決め手となったのは、現地ユーザーの肌感でもある。記者の中国人の友人は「中国国内でも、海外メーカーであることによる信頼性と品質の面で、テスラを選ぶ人は少なくない」と話す。価格や装備のスペックを超え、信頼と品質への期待が購買に影響する――その声が、最終的にテスラを選ぶ背中を押した。
オンライン完結、即時注文
購入から納車までの手続きは簡素だ。販売はオンラインが基本で、ショールーム機能はバンコクのテスラセンターに集約。店舗で購入を決めると、店内の端末からそのまま注文を完了できる。スタッフはオプションや入力の要点を説明するが、手続き自体はペーパーレスで完結する。担当者の裁量に左右されにくい点は、現地では利点だ。

記者は注文後に試乗。スタッフの同乗で運転支援機能(オートパイロット)を体験した。車体は大柄だが、運転視界は従来のSUVと大差ない。一方で、ワンペダルドライブやCHILLモードなど、独特の操作系には一定の学習コストがある。機能説明は丁寧で、初めての新車購入でも不安は小さかった。
試乗中にはテスラスタッフが車の機能について事細かく説明する。ワンペダルドライブや、CHILLモードの説明などもあって、至れり尽くせりだ。タイでの新車購入は初めてだが、日本国内でのトヨタ車の購入時(1990年代)と似ている気がした。世界中でテスラが販売数を伸ばしているのも納得だ。
強引な売り込みはなく、展示車を落ち着いて確認できた。記者は48回払いのローンを選択。頭金40%、年利1.89%で、LMG社のタイプ1保険(1年)が付帯した。予約金は4000バーツ(クレジットカード)。条件は購入時点のもので、時期により異なる可能性がある。
登録手続きと必要書類
その後の連絡は主にメールで進む。外国人の車両登録では以下の書類が求められた。登録手数料は約5000バーツ(別途)。
- パスポートのコピー
- ビザのコピー
- ワークパーミットのコピー(または居住証明のコピー)
- 委任状(車両登録をテスラが代行するため)
記者はKrungsri Autoのローンを利用。審査担当との面談や給与証明の提出などの手続きがあった。
納車当日、アトラクションの様な流れ
12月下旬、バンコク・ラムカムヘンのテスラセンターで納車。予約は15時で、30分前の来場を求められた。来場者が多く、センターは活況だった。
なお、Ramkhamhaengにあるテスラセンターは、元トヨタの物件だ。何階もある駐車場と整備場を含めた大きな建物を、テスラセンターが占めている。元トヨタの方はというと、小型のスターバックス店舗程度の床面積のこじんまりとした場所に移転していた。日本車の将来を暗示するかのような状態だ。
テスラセンターでの受付時に渡されたカードには、今日のアジェンダが書かれていた。
- 登録:30分
- プレゼンテーション:10分
- 車両受け取り:20分
- FMラジオによるオリエンテーション:15分
- 質疑応答・写真撮影:15分
――の順で進行。所要は1時間超。最大40組規模の一斉納車に対応しているとみられる。
プレゼンテーションでは米国内のテスラ工場をドローンで撮影した映像が流れ、ギガキャストやパワーウォール、オプティマスの映像なども流れた。

プレゼン中にテスラアプリで車両が有効化され、スマホがキーとして機能する。

車両受け取り区域には番号が割り振られており、予め渡されたカードに書かれている番号が自分の車両となる。車内には既にカードキーが入ったエンベロープがおかれており、スマホの操作に慣れていない人はカードキーの説明を受けていた。
車両は予めFMラジオが選局されており、テスラスタッフのオリエンテーション音声が車内のスピーカーから流れる。運転するための最低限のオリエンテーションがあり、その後にテスラスタッフがそれぞれの車両を回り、問題がないかどうか、質問があるかどうかを確認して回っていた。
やはり割高な保険料
購入体験を通じて気になる点はいくつかあった。1つは保険料の高さだ。
初年度はLMGのタイプ1が付帯したが、2年目の更新は4万3478バーツ/年だった。従来保有していたガソリンSUV(CX-5、2016年式)の約1万5000バーツ/年と比べると約3倍。修理コストや部品調達の事情が影響しているとみられる。購入検討時は2年目以降の保険料を織り込む必要がある。
都市部の充電網は充実
バンコク都内の充電スポットは選択肢が多い。記者の居住するラムカムヘン周辺でも、日常利用に不便は感じにくい。詳細は別記事で整理している。
(参考:https://thai-kigyosien.com/2024/01/tai-izyuu-nihonzin-mesen-taikoku-zyuuden/)
大手百貨店や大型モールではテスラ専用区画が出入口近くに設けられる例があり、到着後すぐに接続できる。充電待ちや空き区画の探索に伴う時間コストを抑えられる点は、同社ユーザーにとって優位性となる。
一方で、宿泊施設や商業施設に併設されたデスティネーションチャージャー(普通充電)の中には無償提供の拠点もある。利便性は高いが、無償スポットは利用が集中しやすく、時間帯によっては満車が続く局面もある。運用実態を踏まえ、計画的な充電行動が求められる。
まとめ
テスラは25年上期に2637台と、市場の拡大ペースに歩調を合わせて販売を積み上げる。モデルYを軸に、オンライン直販の透明性とプロダクト体験で支持を得る一方、価格競争の激化、保険負担といった課題も残る。購入・登録・納車のプロセスは標準化が進み、初めての新車でも迷いにくい。総コストと利用環境を見極めれば、タイでのEVライフは現実的な選択肢になりつつある。