タイ資本市場の革新と課題 ~TISA制度とJump+イニシアティブがもたらす新たな展望~
タイで個人起業を志す日本人にとって、資産運用と事業支援の両面において、今注目すべき動きが進行中です。タイ証券取引所(SET)が提案したタイ版個人貯蓄口座(TISA)制度は、日本のNISAをモデルにし、個人投資家にとって大きな税制優遇を提供する狙いがありました。しかし、現状では財務省による長期投資に対する税制優遇措置の承認が得られておらず、これが同取引所による「Jump+」イニシアティブへの大きな障壁となっています。
TISA制度の現状と期待される効果
財務省がTISA制度に対する長期投資税制優遇措置をまだ承認していないことが、今回の議論の中心です。SETのアサデージ・コンシリ会長によれば、TISAは日本のNISAに倣い、リテール投資家の参入を促進し、市場全体の活性化を目指しているものの、国の承認が得られなければその効果は限定的となる懸念があります。
また、この制度は個人投資家にとって、長期資産運用を通じたリスクヘッジや、企業への持続可能な支援の手段として期待されており、特にタイにおける新たな起業環境の中で、重要な役割を果たす可能性があります。
この記事の目次
日本のNISAとの比較
日本で長年実施されているNISA制度は、税制上のメリットにより多くの投資家の資産形成を促してきました。これを踏襲する形で提案されたTISA制度は、タイ市場における投資需要の低迷および流動性の不足という課題に対し、税制優遇を武器に投資家の参入を促す戦略的な施策といえます。
Jump+イニシアティブと企業支援プログラム
SET主導のJump+イニシアティブは、2026年から2028年にかけて、持続可能な成長戦略の下で上場企業を支援するための、3年間の発展プログラムです。このプログラムは、資本市場開発基金(CMDF)から5億5千万バーツの助成金を背景に、各参加企業に最大500万バーツのサポート資金を提供し、アドバイザーや専門家の採用、さらにはプロジェクトごとに300万バーツのシード資金が支援される仕組みとなっています。
SECの「Corporate Value Up」プログラムとの連携
タイ証券取引委員会(SEC)も、Jump+を補完する形で、上場企業の長期的な価値向上と投資家信頼回復を目的とした「Corporate Value Up」プログラムを開始しました。同プログラムでは、優れたガバナンスの推進と、タイESGおよびタイESGエクストラファンドによるインセンティブが組み合わさり、企業本来の価値向上が期待されています。
SECのポルナノング事務局長は、「アジアの資本市場はリターンや投資家信頼の面で課題を抱えている。持続可能な成長に向けた『Value Up』アプローチは、タイにとって極めて重要な転換点となる」と語り、またSETのエムノウィ副社長は、過去4~5年で取引流動性が60~70%も低迷している現状に対し、日本や韓国の成功事例を参考に、早急な市場回復を目指す必要性を強調しました。
日本人起業家にとっての影響
タイで個人事業を展開する日本人起業家の皆さんにとって、今回の制度改革や支援プログラムは、単なる資産運用の手段にとどまらず、成長のための戦略的なビジネス環境の整備を意味します。税制優遇や資本支援を背景に、企業ガバナンスの向上や持続可能な経営を進めることで、タイ市場における信頼性や市場流動性の向上が期待されます。
また、これらの施策は、小規模から中規模の企業にとっても、経営基盤の強化や新たなビジネスチャンスの創出に寄与する可能性があり、タイでの起業活動に対する後押しとなるでしょう。今後、TISA制度とJump+イニシアティブの進展、そしてSECのプログラムとの連携が、タイ資本市場全体の活性化へとつながることが期待されます。
タイにおける起業環境は、変革の一端を迎えています。財務省の承認がどのような形で進展するか、そして各プログラムが実際に企業の持続可能な成長と投資家信頼の向上に如何に貢献するか、今後の動向に注目が集まります。
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参照記事:https://www.bangkokpost.com/business/investment/3060474/savings-scheme-awaits-nod